隠居の独り言(1217)

交通機関が発達すれば行動範囲の大きさが拡大するが、拡大とともに考える世界の
次元も大きくなる。人の歩く速度は時速4キロといわれている。自分に置き換えると
自宅から会社までの距離が約8キロなので徒歩だと2時間かかるが車だと約20分、
便利になったものだ。といって今は健康のため電車や歩きで1時間かけて通っている。
江戸の歌川広重の絵で有名になった東海道五十三次は江戸から京まで約490キロ、
これを当時の人は2週間程度で歩いたという。平均1日35キロを歩いたことになる。
軟弱な現代人に比べ昔の人の健脚ぶりに驚きだが、その上に食物は粗食で履物は
草鞋だったから平成に生きる我々は想像を絶する。時代の情報の発達も素晴らしい。
忠臣蔵の内匠頭の切腹の知らせは赤穂まで早足の飛脚で5日も掛かったというが
現代はリアルタイムで情報が伝えられる。戦後でさえ100キロを超える距離の旅行は
容易でなく自分が1949年に上京した時、姫路から東京まで450キロの東海道線
窮屈な夜行列車で13時間をかけた。今では東京から新幹線で3時間、姫路城など
見学して日帰りで堪能できる距離だ。若い頃の新婚旅行は箱根か熱海が定番だった。
しかも箱根は湯元辺りで芦ノ湖は遠い彼方だったし熱海の先の南伊豆は天城越え
秘境の地だった。約20万年前に誕生したといわれる人類のアフリカ起源説によれば
我らの遠い祖先である原生人類ホモサピエンスは2本足で数万年かけて全地球に
拡散していった。数万年をかけ土地によって人種が異なり言葉の違いも顕著になった。
それでも素晴らしき先輩のフロンティアのロマンだ。現代は交通手段がないと徒歩で
大陸間の移動はできない。以前に「80日間世界一周」という素敵な映画があったが
僅か数十年前まで世界旅行するのは日数と数々の危険が伴った。このほど友人が
日本から約12000キロ離れたメキシコへ観光と研修を兼ね旅行する。飛行機のない
一世紀前ならメキシコまで船で一ヶ月もかかったが今では約13時間、ウン十年前、
自分が上京したとき姫路⇒東京間の時間と同じと思うと隔世の感がする。メキシコの
面積は約197万平方kmで日本の5倍の大きさだが今の交通機関なら日本国内と
大差無いだろう。でもどんなに交通の利便が良くなっても通信機器の発達があっても
現地を自分の足で歩き見聞し体験しなければ身体で感じる魅力や感動は分からない。
広大な大地、青いカリブ海、民族のふれあい、古代文明の遺跡、限りない魅力だろう。
そしてラテン音楽をこよなく愛する者には、メキシコは憧れの地であり聖地ともいえる。
友人へ。メキシコをいっぱい楽しみ、本場のラテン音楽をたくさん仕入れてきて欲しい。