隠居の独り言(1253)

ラテンはメシより好きという4人が組んだ「カルテット花火」が結成されて一年が過ぎ
あちこちライブを重ねたが、誇らしいのはメンバー各人が自分を除いて凄い腕達者で
おかげで全国数百のバンドから選ばれ決戦ライブに出られるのは夢見る思いがする。
日曜日昼、のど自慢大会は何十年前からのNHKヒット番組だが、それと同じ趣旨で
NHK福岡放送の企画で17年前から「熱血オヤジバトル」という名の全国を網羅した
親父バンド大会が催されていた。決勝戦に至る過程は、一次審査(書類やテープ)で
NHKが厳選して通過バンドを発表し、次にネット投票、NHK審査、ワイルドカード等の
洗礼を受けて、やっと辿り着くことが出来たという高校野球で譬えれば甲子園出場の
栄冠に輝いた気分だ。しかも数あるジャンルの中でラテン部門は我々だけというのは
多少鼻も高くなるが、バンドの平均年齢70歳代というのも発足17回で初めてらしい。
先だってNHKの係りの人から電話を頂いた。「お歳ですが福岡まで大丈夫ですか?」
若い人は、年寄りにそんな体力はないだろうと鼻で笑うだろうが、ふざけちゃいけない。
今の年寄りの矍鑠は若い人の想像を超えている。長く企業戦士だった経験と体力は
未だ衰えず人生の熟練味の高年文化の花はこれからが本番だ。ガムシャラに働いた
企業戦士の頃は音楽に身をやつすことも叶わなかったが今では充分に時間と余裕で
悠々我が人生を謳歌している。カルテットメンバーが知り合ったのも70過ぎてからで
それぞれ若い時分から貯めた音楽経歴を出し合いミックスしてバンドが出来上がった。
経験の豊かさ=豊かな音楽で、ボーカルパート4、ギターパート4を同時に奏でるのは
音楽の醍醐味そのものだ。バトルに出演するバンドの人の大半が40→50代なので、
ご心配はありがたいが音楽の演奏は年齢に関係なく、むしろ人生の円熟味を聴いて
もらいたい。俳人芭蕉は晩年に「不易流行」という理念に辿り着いた。「不易」の意は
永遠の時を超越して変化しない心境をいう。つまり自らの信念だ。「カルテット花火」の
リーダー・マヌエルは天才的な長い経験から「変えられない音楽の意思」を持っている。
そんな究極の到達点を持つマヌエルだが人間的にも持てる優しさが、また素晴らしい。
とにかく天下のNHKが主催する全国大会に出演できる喜びは青春時代の嬉しさだ。
一世一度の舞台は最初で最後だろう。人は歳を重ねると「若いときは良かったなぁ」と
昔を述懐するものだが、自分は人生で今が最も充実していると思っている。