隠居の独り言(1320)

数年前までは老人ホームにギター仲間たちと慰問演奏で出かけた。けれどホームに
入居している方々の殆どが自分と同年輩で同世代の戦友のように思っていただいた。
だから演奏も歌も音楽の価値観が一緒だったのは嬉しかった。たしかに昭和一桁は
童謡や小学校唱歌、戦時高揚歌、それに戦前の古い流行歌、そして焼け跡で歌った
岡晴夫藤山一郎、春日八郎、美空ひばり三橋美智也などなど、それにシャンソン
映画主題歌など、けっこう幅が広い。なかでも戦争の実体験をした世代に受けるのは
軍歌であって「戦友」「海ゆかば」「麦と兵隊」など、自分の下手なギター弾き語りでも
年寄りたちは涙して一緒に歌ってくれた。それは慰問冥利だったし自分に合っていた。
でも昭和一桁生まれのレパートリーは多いが耳学問のみで楽器の弾く人は少ないが
ハーモニカの名手が多く共演もしたが叙情的で哀愁の音色は昭和を語る音楽だろう。
慰問演奏は一期一会の生と生とのお付き合い、生の声とギターを弾いて合唱をした。
先日も近所の老人会で古賀メロディーを披露したがおおいに受けたのもとても嬉しい。
昭和一桁にとって羨ましいのは戦後に生まれた子供たちで恵まれた家庭環境に育ち、
義務教育の段階で既に五線譜を完全に覚え、中には作曲の手ほどきまで受けている。
自分の子供の頃は音楽といえば親が童謡を教え学校で唱歌を習い、みんなで歌った。
学校の音楽室にはオルガンがあったが、年中鍵がかかっていて生徒は弾けなかった。
同級生のお金持ちのオルガンも高値の花、誰かが持ったハーモニカを順番に吹いた。
今では弦を弾き、菅を吹奏するのは当たり前!中には小学生でショパンを弾いている。
世界の名演奏家もテレビやYouTubeをタッチ一つで聴かれる時代は何て幸せだろう。
でもその反面に今の環境が豊かになればなるほどに心に残る音楽が生まれていない。
今の若い人の歌っている流行歌なるもの中高老年オジンには何が何だか分からない。
まず情緒がない。メロディーが薄弱でリズム音ばかりが騒々しい。歌詞も分からない。
オジンたちよりもっと高度の音楽的教養を身につけているはずなのにどうしてなのか。
さらに言えば今の若い衆に歌う歌が無いのではと逆に哀れに思えるのは自分だけか。
音楽に関して昔が良かったのは誰も認める。18-19世紀のクラシックの優雅な音楽は
二度と生まれないし、その後、20世紀までの音楽のほうが遥かに歌詞に情感があり
メロディーに哀愁があった。だから昔の環境で育ったオジンのほうが幸せだと感じる。
今の若い衆が年寄りになって昔を偲ぶ歌は何だろう。慰問に来てくれる演奏家達は
何の曲を奏でるのだろう。音楽は人生の宝石だ。宝石が粗末だと人生も粗末になる。