隠居の独り言(1328)

「二人がむつまじくいるためには 愚かでいるほうがいい 立派すぎないほうがいい 
立派すぎることは長持ちしないことだと 気付いているほうがいい 完璧をめざさない
ほうがいい 完璧なんて不自然なことだと うそぶいているほうがいい 二人のうち
どちらかがふざけているほうがいい ずっこけているほうがいい 互いに非難することが
あっても 非難できる資格が自分にあったかどうか あとで疑わしくなるほうがいい」
これは詩人・吉野弘の「祝婚歌」の一節だが、自分が所帯を持って49年、現在までの
生活を顧みて思い当たること多い。最近の調査によると二人が愛し合って結婚しても
三組に一組が離婚するという。それだけ結婚観が変わったのか我慢が足りないのか。
中には、スレ違い同士が積もり積もって定年退職の日に離婚届に判を押さなければ
ならない悲劇もある。妻は息を潜めてその日を待っているのに夫はまるで気付かない。
夫は青天の霹靂に絶句しても既に遅し。「人は判断力の欠如によって結婚し忍耐力の
欠如によって離婚する」フランスの劇作家アルマン・サラクルーは、こう喝破したが、
結婚式で神父の前で永遠の愛を誓っても建前の茶番劇と思い当たる人も多いだろう。
そもそも教会に敷かれたヴァージンロードを真に歩ける新婚夫婦なんて稀有に等しい。
男と女は最初どんなに愛し合ってもやがて新鮮さが無くなると惰性と退屈の日が続く。
だが夫がどんなに仕事が忙しくても妻がどんなに子育てに忙しくても互いを思いやる
時間を忘れてはならない。日本人の平均寿命が長くなったということは老後の時間が
たくさん残されていることであり最も大切なのは相手の話にきちんと耳を傾け、自分も
積極的に語ることが老いた有限の時を有効に使い晩年を輝かせ充実したものになる。
「夫婦とは長い会話である」 哲学者・ニーチェの言葉をもう一度噛み締めるのがいい。
そして人生は失って初めて大切なものに気づく場合が多い。まず健康で、朝目覚めて、
夜就寝するまでを食事を楽しみ遊んだり車を運転したり旅行することも出来る幸せは
健康あってのもので、病気や怪我で奪われると健康が特別のものであるように感じる。
夫婦も同じで、どちらかが先に欠けたら残された側は喪失感と挫折を味わうことだろう。
何事もなく恙無い日々も、やがて崩壊するのは宇宙の時間の上で生きている以上は
必須の将来だ。多くの場合、先に逝くのは夫のほうが圧倒的で、多くの夫は妻よりも
年上で平均寿命も女の方が6-7年も長いとあれば、老後こそ妻を大切にしなければ
人生の走馬灯の終わりの部分に傷がつく。寅さんのセリフじゃないが、男はつらいよ