隠居の独り言(1338)

このところ自分の敬愛する同年輩の二人の作家の訃報を知らされた。画家で作家の
赤瀬川原平氏が26日亡くなった。享年77歳。そして元駐タイ日本大使で作家だった
岡崎久彦氏が同じ日に亡くなられた。享年84歳。赤瀬川さんの著書は自分も昭和に
生きた共感を覚えたし岡崎さんは自らの外交体験から的確な歴史観点を持っていた。
同世代を生きた二人の著書を熟読したファンの一人として、謹んでご冥福を祈りたい。
改めて思うのは人生にとって一番の課題は必ず終わるということ。誰も避けられない。
自分も有限の時間は多くないが人生の決算書が少し黒字であればそれで良いと思う。
決算結果は死ねば分かる。好いてくれた人は泣いてくれるだろうが、嫌われていれば、
むしろ喜ぶだろう。でも亡くなってから人が泣こうが喜ぼうがどうでもいいことで自分の
生涯は自分だけのものであり地球70億人の他人とは明らかに違う。人生はどんなに
名を成し、多大の財産を手中にしても一日に6食は食べられないし何百着の洋服も
1回に1着しか着られない。医療の発達で寿命は伸びたが人生は1回きりで2回や3回と
区切るわけにはいかない。だからこそ、たった一度の人生を大事にと切に思う。
「ターザン」で名を成したワイズ・ミュラーは80歳まで生きたが引退後は事業に失敗し
そのうえ数度に亘る離婚で殆ど無一文になり、あげく盗みで逮捕されるという体たらく。
最後は頭もおかしくなり入院中に夜中に叫んで病院を震撼させ強制退院させられた。
後に10数年の病床生活の後1984年にメキシコの養老病院で独り淋しく亡くなった。
日本人の寿命は男性の場合80歳に到着したが健康寿命は約72歳で止まっている。
その間の8年間の健康を害して人手を借りなければ生きられない現状は本人も辛く、
面倒を見る側も並大抵の苦労じゃない。健康の保持には自己責任に負うところも多い。
反面に、石川啄木樋口一葉金子みすず滝廉太郎、などの夭折した天才たちは
生きるうちは苦労し、死後になってから名を成したが果たして本人は幸せだったろうか。
人生とは明日が分からないから面白い。自分の八十路の現在も未来が開かれている。
でも無限でなく有限の時間に開かれたもので宇宙の中の、いわば無限小に向かって
開かれた未来は人生の後始末のことで間もなく終わる自分も結局、地球のゴミとして
処分される。でもゴミはいつか再生されて現世に戻ってくる。それを仏教で輪廻という。
元禄の油煙斎貞柳は「百居ても同じ浮世に同じ花、月はまんまる雪は白妙」と詠った。