隠居の独り言(1345)

先日、関西へ仕事と遊びを兼ね一泊旅行した。仕事だけでなく旅はときどきしている。
しかし今の新幹線から見る車窓はつまらない。特に東京近郊の線路の外は防音壁の
無機質なコンクリートの壁の中を走るようで外を眺めるより本を読んでいるほうがいい。
今は山中 今は浜、今は鉄橋渡るぞと、思う間も無く トンネルの闇を通って広野原・・・
そもそも新幹線は早すぎる。昔の旅行は、その土地の旅情、風景そして人情があった。
とくに列車を降りたとき、まず目に入る眺めがよかった。駅前の一膳飯屋も現代風の
グルメがどうしたというより、その土地ならではの味わいが、一味加わって美味かった。
啄木は「ふるさとの訛りなつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」と、詠ったが
東京での暮らしが続く中どうしても故郷の東北弁が聞きたくなって東北行きの列車が
発着する上野駅の人ごみに入って東北から往来する人の東北弁を懐かしんだという。
自分も初めて東海道線で上京した時も、車窓の風景が様々変わって旅が楽しかった。
姫路→東京は13時間掛かったが途中、沼津駅電気機関車と交換する時30分間。
外に富士が見え、乗客はホームに出て洗面する人、駅弁買う人、実にのんびりとした。
当時の東海道線蒸気機関車で発車の汽笛、列車を牽引する音は、もう聞こえない。
新幹線が出来て便利になった反面に旅情が無くなった。駅前は見事に統一の景観で
そもそもお国訛りが聞こえない。仲間同士の団体さんは大阪サカイとか、京ドスエが
聞こえるが、全国どこへ行っても標準的で駅前の飯屋も東京と同じメニューしかない。
昔、田中角栄元首相が「日本列島改造論」という本を出した。建前として日本列島の
過密と過疎を同時に解消して国家百年の基礎を作るというアイディアは画期的だった。
大都市圏に集中した政治経済の移転を促進する。それに伴い地方と農業を再生する。
それを同時に走り出したから全国が工事建設になった。果たして結果はどうだったか。
地価が高騰し、折からの石油危機、経済成長は逆に鈍り、やがてインフレに繋がった。
何より大きく変わったのは人のモラルで暮らし方や価値観が金一辺倒になったことだ。
アベノミクスは地方創世を目指しているが角栄の二の舞を演じてはならない。日本の
少子高齢化の将来は地方の人口減少は然るべき成り行きであり、だからこそ地方を
元の自然に上手に戻すのが美しい日本の未来図だと思う。難しいが挑戦して欲しい。
歳を重ねて各駅停車の電車に乗ってみたい。新幹線の車窓からは見えなかったもの、
庭の柿が熟しているのが見える。言葉の熟しているのが見える。そして自分が見える。