隠居の独り言(1424)

自分の本名は横山正樹という。自分で言うのもおこがましいがいい名前と思っている。
父は読書家だったが、とくに島崎藤村が好みのようで本棚に藤村が並べられていた。
正樹の名前は藤村の父の名前で島崎正樹は幕末、明治の国学者で名を成したという。
藤村の名作「夜明け前」の主人公の「青山半蔵」のモデルとも言われている。そんな
立派な名前を付けてくれた父に今更の如く感謝しているがしかし何とも堅物の名前で
字体でいえば習字の手本に書く楷書にぴったりする。でも例えば「愛の歌」を熱唱して、
好きな女を口説くようなイメージはまるでない。白状すれば自分はけっして堅物でない。
若い時分は喧嘩好きの硬派だったし、綺麗なお姉さんにはコロリと参いる軟派だった。
その頃根付いた不良性は歳を重ねても治らず未だ美人と道で会うと振り向いてしまう。
小僧時代はみんなから「エンちゃん」と呼ばれた。当時の漫談家横山エンタツからきた
ニックネームで人には調子が良くオッチョコチョイだった性格から名付けられたものだ。
名が体を表していない人生でおよそ本名のイメージにそぐわなく、名付け親の父には
申し訳なく思っている。今はブログを書いているが最初に表題を考え、堅苦しいことを
書くわけでないので自分の名前の「号」を考えた。はじめは「横山号徒然草」とか
「古里の正樹庵」など古い頭を絞ったが最終的に故郷の播磨地方と若い頃に読んだ
森鴎外の「うたかたの記」をくっつけて、表題を「播磨屋うたかたの記」に落ち着き、
ペンネームも播磨屋とした。もし本名のままでブログを書いたならユーモアにも欠け、
くだけた部分も随分制約されるだろう。数年前にラテンバンドに入ったが、そのときは
メンバーが、ソンブレロ(Sombrero)というニックネームを付けてくれた。ソンブレロとは
スペイン語で帽子の意味で職業を相まって良い名前だ。バンドの内ではSombreroと
ニックネームで呼び合った。名前というのは、なにも一つに縛られる必要はないだろう。
誰もが色々な顔、性格があり才能や要素、チャンネルというのが、いくつも持っている。
思えば名前とはTPOで洋服など使い分けするように、いくつか持っていたほうがいい。
実名というのは社会生活用には必要だが個人生活用の名前もあっていいものと思う。
大事なのはそれぞれの別名を大切にすることでそれは自分を大切にすることと同じだ。
自分が作らなくても他の人が付けてくれる場合もある。飲み屋に行けば「社長さん」で
家に帰れば「お爺ちゃん」孫は歳が最も遠いのに「ジジ」と敬称なしで呼び捨てにする。
そしてやがて、この世からおさらばしても「地獄の沙汰も金次第」の戒名が付けられる。
画家で詩人の竹久夢二の戒名は「竹久亭夢生楽園居士」で、生前のイメージに近い。
自分は「播磨亭歌方居士」の戒名で、あの世でもギター弾き語りを楽しみたいと思う。