隠居の独り言(1498)

シャンソン歌手・シャルルアズナヴールが6月に日本公演をするという。彼はなんと92歳!
先日この稿で書いたが声楽とはピアノやヴァイオリンと違って楽器が人間の喉である以上、
齢を取ればどうしても喉の筋肉が衰え、若き日の艶やかで澄んだ歌声は望むべくもなくなる。
アズナヴールともなれば過ぎし日の栄光と人生観が歌に表現されて歌声プラスアルファーが
聴衆を感動させるだろう。アズナヴールは1924年にフランス・パリ生まれの、言わずと知れた
シャンソンの神様レジェンドといえる。60年代から70年代にかけて日本で起こったシャンソン
ブームの代表曲「帰り来ぬ青春」の美しく悲哀に満ちたメロデーには自分も痺れたものだった。
他「ラ・ボエーム」「哀しみのヴェニス」「世界の果て」「コメディアン」「イザベル」等、心に沁みる。
彼の歌が日本人に共感するのは、例えば歌舞伎の「道行き」で心中し恋を遂げる情愛に似た
歌が多いからで中でも「イザベル」が好きだがアズナヴール独特の声の微妙に震える繊細な
あの歌い方が聴く者の心を動かす。「人がその手の中に、二十歳という年齢や、約束された
未来という富を持ち、酔っぱらうまで飲むべきなのに、あとになって取り返しのつかない悔いを
残す愚かさ・」アズナヴールの歌は、そういう青春を歌って、歌いながら涙こらえて人生を語る。
エンターティナーとしてのアズナヴールの情感の魅力には言葉に表せないほどに素晴らしい。
かつて、その魅力に執り付かれLPでどれほど聴いたか。意味も分からず暗記して歌っていた。
そして今、92歳の御年で公演が出来るとは今まで並大抵の努力では実現できるものじゃない。
老体にめげず健康に留意し練習を重ね、はるばる日本に遠征するアズナヴールに敬服する。
不肖83歳の自分も弾き語りで未だ歌っている。いつまで歌えるか分からないが後は神の領域。
自分の生涯の中で音楽を持てた幸せは何に代え難い。今はホーム慰問などで歌っているが、
齢重ねれば自分なりの味わいが出るのを覚える。アズナヴールのように92歳まで歌えるか・