小僧(22)

戦後から最近にかけて半世紀、帽子を被らなくなったと、つくづく思う。
街の中でもご婦人はときどきお洒落で被っていらっしゃる方は見かけるが
男はお年寄りかスポーツ選手ぐらいしか被らなくなってしまった。
戦前の写真など見ていると盛り場など無帽の人を探すのが困難なくらいで
着物姿でかんかん帽や鳥打などお洒落のポイントの最初は帽子だった時代で
文明開化の衣類の先駆者は帽子と言って過言でなく会社の規模も一部上場された
のが何社かあったし戦前の成功者の中には満州朝鮮台湾などに進出して大成し
故郷の学校を一校寄付したとか、夢のような古老の話しも伝わっている。
自信は経験の積み重ねから沸いて来るものらしいが、仕事の暇な時など「飛び込み」を
やらされた。面識のないところに突然訪問して商品の話しと名刺を置いてくることだが
最初は百軒に一軒の確率もなく無駄のようにみえても、やがて積み重ねが商売に結びつく
こともあるし、それより人に怖じない自らの自信がとても大切なもののように思えてくる。
会釈のしかた、言葉遣い、自然なスマイルは人それぞれの歩み方から生まれるように思う。
24才の小僧も独立の気運も高まってきたが、ある日仕事中、突然に胸苦しさを感じ冷や汗が
出て呼吸困難におちいり、近くの病院で診察を受けたら結核自然気胸と診断され目の前が
真っ暗になった。胸に太い針を刺され空気を抜く治療をされたがその場で入院を宣告された。