小僧(29)

私はずっと学歴コンプレックスに悩んでいた。人と初対面のときや
仕事に入るとき、必ず最初のはなしは相手の出身校であり、それが
人物の値打ちを判定する基準にもなる気がして、学歴の話を避ける
ように話題を考え、商談や友人との付き合いも気にしながら生きていた。
学生を見ればわが身を嘆き、六大学や高校野球なども好きになれなかった。
学歴は一生付きまとう入れ墨のようなものだが、今さら恨んでも仕方ないし
それがプッツリ切れたのは独り立ちに燃えたこの時期だったかも知れない。
“若さ”のいいところは傷つきやすい面、立ち直りも早い面の持ち合わせだろうか。
実力と能力の事業の世界は学歴が通用するような甘いものでないと身を持って知る。
独立によって会社に迷惑を掛けたくなかったし大切なことは“円満退社”の肩書きは
信用状のようなものだったから、どうしても欲しかった。そのためには心機一転、
新しいお得意さまや仕入先、職人さんたちを探すこと、そしてなにより資本金の
一円でも多く貯めること、もう後ろを振り向くことはない。がむしゃらに夢に向かった。