小僧(銭湯)

上京したころは会社に五右衛門風呂があったが下町の各家では
内風呂があるのは少なくて番頭さんなどは銭湯へ通っていた。
入社して間もなく工場部分を平屋から二階建てに立て直すことになり
小僧も生まれて初めて銭湯に行く事になり連れて行かれたときは脱衣所で
裸になるのがむしょうに恥ずかしく先輩たちにからかわれた思い出がある。
当時、家の廃材は銭湯の燃料としてほとんどが大八車で運んだが代わりに
無料入場券を貰って何度か入浴したものだった。銭湯の入り口には料金表に
小人中人大人と三段階に分かれ婦人の洗髪料など別料金と書かれてあった。
広い浴槽では心置きなく手足を思いっきり伸ばしてお湯も豊富に使えるのが嬉しい。
浴場の壁にはペンキで富士や松島が画かれて温泉気分を演出し脱衣所の天井には大きな
扇風機がゆっくり回って、その下で近所の人たちとお喋りの裸の社交場の雰囲気があった。
事実、銭湯で知り合った友達などいたりして、僅か半年の銭湯通いだった思い出は多いが、
シャンプーはまだ無くて冬の夜の石鹸箱がカタカタ鳴った“神田川”の情景が今も懐かしい。
先輩が「一度番台に座ってみたいなぁ」と言ったがすぐ理解できない、まだ純な小僧だった。