小僧一人旅(4)

人生は植物の種のようで、いつ、どこで根付き、どのような木に成長するか分からない。
立派な花も実もある大木もあれば日陰で萎れてしまう苗もある。持って生まれた運だろう。
政治でも経済でもそうだが戦乱期、混乱期に年回りがいいと成功する率ははるかに高い。
今の大企業から中小企業までの大半は戦後間もなくの混乱期の昭和20年代に創業した
会社が圧倒的に多く、したがって創業者の大正生まれの人はその千載一遇をものにした。
混乱期は品薄で人も多く土地も安く手に入りその上、物価高騰で資産はひとりでに殖えて
成功した人たちの大部分は絶好の好機のこの時期に上手く泳いだ人々がいい思いをした。
小僧が独り立ちをしたのは昭和30年代の後半、世の中は落ち着きを取り戻して流通経路は
殆んど決まり、世間は正面とは違った路線を歩まないと生き残りが難しい情勢であった。
アメ横に標準を付けたのは正解で、相手にとても可愛がっていただきアメリカから直輸入

(当時輸入品は高かった)した見本をこちらで製品化して、しかも現金取引をいただいた。
カストロ、アイビー、マリンキャップなど問屋では扱っていないものを試行錯誤しながら
作った小僧は寝る間も惜しく仕事に没頭できた充実と店の基礎作りの一時期は懸命だった。