小僧一人旅(11)

中国の五行説は「木火土金水」の五つが天地万物の全てが当てはまると考えられている。
小僧は四月生まれの木星、対応する方角は東、色は青、季節は春。そうだ!青春なのだ!
なにかの本で読んだ生半可な知識でも、それに依った自信と言うのも恐ろしいもので
日々の苦労も、それほど感じずに仕事をこなしていた。若さはいい、未来がある。
裁断士が毎日居ることと、職人さんの一年365日の仕事を切らさずに商いを取るのは、
それなりの苦労と才覚は必要だが、それらにも対応出来るようになったのも世間を泳ぐ
すべが、徐々に分かりかけてきた現実味と思いがあった。売り上げも徐々に伸びて
生産もある程度軌道に乗り、生地や製品の在庫も増えてきたので嘗て大家さんの居た
隣の部屋を借りることにした。しかし商いと云うのは不思議なもので伸びれば伸びた分
資金が苦しくなり、そのジレンマに悩みながらもますます生活を詰めざるを得ない。
取引先の信用金庫に融資を問うたが、当時は金利も高く一年で一割強の利息との話で、
まして担保物件も無い路傍の石の小僧にはとても無理な話で、そのときの味わった
恥辱感が、其の後の無借金経営の考えの基礎が出来たと思えば、信用金庫の行員に
感謝せねばならないだろう。事実その後、現在まで、全てのものに借金は一度も無い。
そんな折、いつものオカズ横丁の女将さんから「いい娘がいるけどお見合いをしない?」
そのご好意には感謝したが、未だ所帯を持てる状況ではなく固辞したが「会うだけでも」
と云うお言葉に承諾した。小僧はチョッピリ甘い夢を見た。