小僧一人旅(13)

三年間も待て、というのは先物取引の空手形のようで、誰も信用しないのは当たり前で
女心は男の決断と実行力を待っている。それを読めなかった小僧の未熟さがダメにした。
当時の結婚の統計は知らないが、恋愛結婚よりお見合い結婚の方が多かった気がする。
小僧の周りの夫婦は見合い結婚が多く、それが当たり前の世相の背景が濃く残っていた。
町のどこかには必ずといっていいほど月下氷人の世話好きのおばさんが居て、頼まれた
「お見合い写真」の何通かをいつも所持して、眼鏡に適った相手を探すのを生きがいとして
いた人が多く、仲人して結ばれれば我がことのように喜び、祝った、とびっきり人がいい。
生命保険のおばさんなどは仕事にも結び付けて引き合わせ役をこまめに行いまとめていた。
先輩の職人さんなどは「おらぁ結婚式の日までかかぁの顔見たこたぁねぇ」と、つわものも
いたが、それでもとても夫婦仲良く暮らしていた。「こうのとり」の縁は不思議なものだ。
当時は今より結婚年齢が早かった気がするが、男も三十近くになると外野がうるさくなる。
小僧もかつては恋愛も何度かあったが、意気込み過ぎたのか、真面目に捉え過ぎたのか、
全てが失速して夢と消えていった。恋愛は夢のようだがその夢は男と女は違う気がして、
現実をわきまえて冷静にならざるをえない男と、溺れて世間が見えなくなる女の一途さは
永遠の課題かも知れない。当時の世相は男が妻子を養うのは当然の勤めで、女に働かせる
なんて髪結い亭主的に軽蔑された。それには安定した収入と住む家屋の確保が至上命令で、
生活の自信がつくまでは、おばさんたちの「見合い話」からは遠ざかるようにした。