小僧一人旅(14)

丸二年が過ぎたお正月に久しぶりに帰郷した。当時は夜行列車、神戸行き「銀河」に乗り
その先は普通電車に切り替え姫路に着くが、電車が播磨平野に入ると車窓から遥か遠くに
姫路城が見えはじめ食い入るようにその光景に釘付けになる。こんなにも美しい城は他に
あるだろうか。姫路を故郷に持つ小僧の幸せは「ふるさとへ回る六部は」の心境である。
当時は8時間も掛かって列車の走行の音がしばらく耳に残った。それでも初めての上京の
ときは13時間、今は新幹線で3時間半、時の進化は素晴らしい。父はあれからすっかり
元気になって仕事も始めて安堵した。小僧は仕事の経過を父母に報告し安心してもらった。
母は「よかったなぁー、ほんまによかった、今度はよめはんが、来てくれるとええなぁー」
ふるさとの言葉はいい。いつもだが小僧は江戸弁を捨て姫路弁にスイッチを切り替える。
嫁に行った妹も里帰りして、総勢8人、気兼ねの無い会話に改めて親兄弟との再会が嬉しい。
夕食はスキヤキパーティにしようと言う話になり、しばらくスキヤキは食べていなかったので
お腹が鳴った。関西のスキヤキは熱したなべ底に肉の脂を敷き、まず肉と青ネギを炒めて
醤油、ミリン、砂糖をタップリ入れて、あとは色々な具を炒めていく方法だが、父が調理し
「肉食べやぁー、肉食べやぁー」と真っ先にお碗に入れてくれて、父の味に舌が酔った。
お酒も出たが何年も飲んでいないので、体質も変わったのか、チョコ一杯で赤くなって、
煙草も酒も絶って始めた小僧の稼業は、身体まですっかり染まっていたのに気が付いた。
夜遅くまで、みなと駄弁った。家族は素晴らしい。離れてはじめて分かった暖かみに涙した。