小僧一人旅(17)

話はそれるが、最近の若者に大学を出て、会社に入っても長続きせず、また就職もしないで
ぶらぶらしている風潮があるという。理由は「自分のやりたいことが見つからない」とかで
これからの目標とて漠然としている。なんという贅沢、なんという甘え、なんという能天気。
世界には貧困のため学校どころか生きる事さえ難儀な子供たちが大勢いるし、日本でも家庭の
事情で進学出来ない生徒がごまんといる。小僧とて今の仕事は自ら選んでしたわけではない。
子供の頃の夢は、電車の運転手、軍人、医者、外交官など年代とともに変わっていったが
運不運とか、めぐり合いとか、人生の関所を何度か通り、出会い頭的に今の職業になった。
人生は山登りに似ている。希望という頂上を目指しているときは足が疲れても輝いているが
峠を越えると、あとは下山で、その先は十万億土西方浄土への一方通行で終わっている。
青春時代の殆んどが“小僧”として働き、其の後の独立も生易しい道のりではなかったが、
今にして思えば、幸せの目標を求めて苦労しているときが最も幸せな時期だったと述懐する。
誰もほめてくれなくても、誰も叱ってくれなくても、独り立ちは独りでその責を全て負う。
早いもので会社を辞めて3年が過ぎようとしている。仕事の量からして一人では間に合わず
パートの人や学生アルバイトも雇って、ようやく町工場らしい格好になり、地に足が着いた
感じがして、そろそろ世帯を持てる自身めいたものが生まれてきた。三十才の春だった。