煙草と健康

最近の夏の夜は自然のホタルより人間のホタル族のほうが圧倒的に多いという。
「煙草は優しい麻薬である」脚本家で作家の久世光彦が上手いことをいった。
健康に良くないと知りつつ吸うのは意思が弱いのかそれともよほど好きなのか。
煙草を吸ったからって必ずガンになるとはかぎらない。あくまで確率の問題で
統計的に高いというだけのことで生きてみなければ分からない。沖縄の男性の
最高年齢者の泉千代さんは煙草をやめずに110歳を天寿し、中国の毛沢東
ニコチンの強い煙草を一日100本も喫って82歳まで生きたし訒小平も同じく
一生止められず92歳まで存命したが三人とも肺ガンが命取りではなかった。
私もかつて喫煙履歴が30年ほどあるが、あの一服の旨さは今も忘れられない。
今でこそ悪者扱いだがかつて喫煙は文化だった。会社の応接間のテーブルの
上の煙草入れにはラッキーストライクが用意され来客に勧めて商談が弾んだ。
映画、TV,芝居、落語等々、小道具としてのタバコは不可欠なものだったし
キセルも流行った時代があって街の物売りに混じってラオ屋が商売をしていた。
若いときはあの煙草をくわえるサマが憧れで最初は咳き込みながらも慣れたが
喫煙したからってモテタわけでもなく小遣いばかり減って止めるに止められず
気が付いたら50歳に近く幼い娘に「タバコデオナカガマックロニナルヨ」の
ひとことで終止符を打った。男は女房の言葉には耳を貸さないが娘には弱い。
愛煙家が嫌煙家に変身するには時間が掛かったが止めてよかったと思っている。
唐代の詩人杜甫は人生七十年古来稀なりと言ったが当節の日本は75歳以上の
年寄りが1200万人、100歳以上が2万人と鶴亀の時代になっている。長生きの
統計はそうだがそれぞれの健康は自己責任で喫煙率の減少も一つの原因らしい。
「長生きの秘訣は正直には生きないこと。正直とウソの真中を上手く渡ること」
106歳を全うした国文学者の物集高量(もずめたかかず)は語ったと言う。