夏の終わりに(11)

戦後間もなくの日本中の各都市は月面のような廃墟の風景が広がっていた。
戦災で焼け出された人たちは親戚縁者を頼って田舎に逃げたが、縁者のない
都会の被災者は着の身着のままで焼け残った公舎や駅の構内に雨露をしのぎ、
食を求めて彷徨ったが、弱い年寄りや幼児は栄養失調で倒れるのが続出した。
亡くなった祖母も絶対量の足りない食料を遠慮して命を縮めたし、母は配給の
僅かな魚を「ウチは魚が嫌いや」と食べなかった。主食はスイトンだが中身は
芋や小麦粉に草や藻を混ぜ出来るだけ水分を多く、お碗一杯で腹を満たした。
なかにはタネ抜き芋やヒエなど口に入るものは何でもよく昆虫、雑草、爬虫類等
お椀の中は多種多様で味付けは海水をタライで天日干しをした塩が使われた。
二つ下の妹は夜中に畑で作物を盗み「道で拾った」と嘘をついていたが、ある夜
農家の人に見つかり、鞭で打たれて体中ミミズ腫れで泣きながら帰ってきたが、
それでも誰も咎める気持ちが無かった卑しさが悲しかった。
買出し列車の中で検査官に食料を取り上げられ泣いてすがった女の人はあれから
どうしたろうか? 太った農家の傲慢なオヤジは人情味の一つもあったろうか?
成長過程の少年に味わった数々の熾烈な体験に、よくぞ生きてこられたと思う。
過ぎてみれば夢を見る思いだが、全ては地獄の現実であったことには間違いない。
今は戦争を知らない飽食の世代が人口の大部分を占めている。豊かで苦労のない
若い人たちは、つい半世紀前には飢えた時代があったことを、ぜひ知ってほしい。
誰だって戦争は嫌だ! けれど人間に欲望があり国家に覇権的な政策がある限り
永久に戦争は起こりうるだろう。 戦争に負けたことの原因と厳しさを大局的に
捉えてこれからの日本の道を正しく歩んで欲しい。     了。
f: