長寿社会(8)

私の人生の砂時計には、どれほどの砂の残量があるか分からないが
所詮は運と思う。余生の時間はお金じゃ買えないが残りはおつりだ。
3年前の健康診断で血液検査の腫瘍マーカー(PSA)の数値が上がり
精密検査で前立腺ガンの告知を受け、其の後に全摘出手術をした。
医師から告げられた日の夜は泣きたい気持ちに一晩中眠れなかったし
手術直前も「リンパ腺にガンが転移していれば手術中止します」と
言い渡されて手術台に乗ったが終わるまでは神に祈るしかなかった。
あの時の気持ちは一生忘れられないがそれで生まれ変わった感じだ。
今も半年に一度は血液検査をしているが結果OKを告げられた時の
気持ちは空に叫びたい思いだ。ガンは患わないに越した事はないが、
患ったことによって生きる事の喜びや大切さが切実に感じて自分の
人生観が大きく変わったことも事実だ。風景や自然を楽しめる余裕が
出てきたことも、ふとした小さなことでも感動を覚えたりするのも、
今までになかった新しい発見に喜びを覚える。世の中の何万分の一も
知らない一人の人間は、いくら大きな事を言っても苦しみや悲しみを
体験しないと、生きることの価値観が分からないまま終わるだろう。
二度とない流れる時を愛おしく思うのは患ったからにほかならない。
今もこうしてブログを綴る時間が与えられたのも、きっと神さまが
ご褒美をくださったと感謝している。 長寿を得たものは果報者だ。
そして人生の最終楽章は静かに演じたい。 了。