隠居の独り言(20)

司馬遼太郎が亡くなったのは72歳だがその死に特別の感慨を持つのは私も
今が同じ年齢でこれ以上生きるのは司馬さんに申し訳ない気がしている。
「人の一生というのは、たかだか50年そこそこで、いったん志を抱けば
その志に向かって事が進捗する手段のみをとり、いやしくも弱気を発しては
いけない。たとえその目的が成就できなくても、その道中への道のりで死ぬ
べきだ。生死は自然現象でそれを計算に入れてはいけない」竜馬がゆく、より
人の生き様はともすれば死を恐れるが、神さまから与えられた命の大切さを
司馬さんが教えてくれるようでこの一項はいつも人生訓のように思っている。
竜馬がゆく」「坂の上の雲」「国盗り物語」「翔ぶが如く」等々の大河小説、
短編、評論、紀行文、エッセーなどの文筆活動のあらゆる分野の八面六臂の
活躍は一生の短さでよくあれほどの中身濃い作品の数々を作れたと敬服する。
司馬作品には言葉が流れるように無駄なく凝縮されているが長編物の合間に
読んだ短編物の面白さもまた格別の薀蓄があって「おお、鉄砲」「大坂侍」
「一夜官女」など、おおらかに書かれたフィクションは忙しい仕事の合間や
就寝前のひとときを満喫させてくれた。歴史のなかのユーモアや恋物語まで
小説の妙を飽くことなく知り時間を忘れたのは今も私の一部だと思っている。
いつの日か東大阪市司馬遼太郎館を訪れるのが夢だ。つづく・・