隠居の独り言(91)

子供の頃あれほど恥ずかしく悩んだ事も歳とともに薄れて忘却の
彼方へ去っていく。誰にも言えず一人で苦しんだのも今は思い出だ。
幼児の頃から小学校低学年の頃まで吃音で苦しんだ時期があった。
特に言葉の出だしのカ行とタ行がうまく言えず自分の意思を相手に
伝える事の難しさとやりきれなさが童心を蝕みやがて無口になって
友達に馬鹿にされれば殴り合いの喧嘩になる悲しい時期でもあった。
国語の音読は特に苦手で指された時の恥ずかしさは例えようがない。
不登校が多くなり友達も減って家にひきこもり状態が続いていた。
ところが吃音者は歌を歌うときは不思議と吃らない。母は心配して
私を近くの教会へ連れていき牧師に話して聖歌隊に入れてもらった。
賛美歌を歌うのは素晴らしい。なにより旋律が美しいし歌詞の
内容も自分の傷付いた気持ちを癒される効果があったのだと思う。
指揮をした牧師も取り立ててくれて合唱の中のソロの部分などは
任せてくれたしあの頃は高音も出て多分ボーイソプラノだった。
言葉の出だしは歌うように発音すると吃音は忘れたように上手く
喋れて自然に治っていくものだが、あの時に歌う機会を与えられた
ことはその後の人生にどれほど大きなプラスになっただろうか。
学校の担任の先生も心配してくださって自信を付けさせるためか
卒業式の壇上で卒業生を代表して答辞を読ませていただいた。
自然に吃音が治った事、音楽が好きになった事、優しさを覚えた事、
障害も苦労すれば克服出来ると信じた事、等々計り知れない喜びを
教えてくれた父母や先生方に感謝の言葉も無い。