隠居の独り言(214)

歳を取ると新聞の追悼抄がとても気にかかる。元阪急のエース梶本隆夫さん
クールファイブの内山田洋さん、作家の永沢光雄さんなど私より歳が若くて
重い病を得て亡くなられた故人は人生の不条理を恨んで逝ったに違いない。
何とも対照的な訃報に漢字学者の白川静さんは96歳の高齢で死の直前まで
元気に講演をこなし、かくしゃくたる晩年を通した事だ。高齢者でも元気に
暮らす人、若くして病気や事故で命を落とす人など、どんなに医学の進歩や
社会の環境が良くなっても生老病死は持って生まれた運としか思えないが
ガンの発病、不慮の事故の人生の不運はその人の行状の善悪には関係がない。
徒然草吉田兼好は世の中に潮時とか順序があるが人の寿命は潮時も何もなく
突然やってくると説いている。「死は前よりしも来らず、かねて後より迫れり。
沖の干潟遥かなれども磯より潮の満つるが如し」と人生の真実に迫ってきて
生老病死には予告がないという。ならば自らの寿命の尽きるまで日々を大切に
暮らし、ただ一度の人生を生きている実感を持つことが幸福といえるだろう。
最近発表された厚生労働省の長寿番付によると百歳以上の人は28,000人以上
5年前に比べて倍近くになったという。女性が昨年に初めて20,000人を突破し
全体の85%というからますます女性にはお目出度い話だが、急激に高齢化が
進むと同時に認知症や介護の問題が深刻化されていく。一概に長寿がいいと
言えないのは老いと共に気力を失い無為徒食の日々が続ければ本人も辛いし
社会に迷惑をかけ、安らかな人生の終末を迎えられない悲劇となってしまう。
ほどほどの惜しまれる人生がいい。