隠居の独り言(257)

最近の新聞の三面記事は殺人事件が載っていない日はないほど日常茶飯事のように
なって読むのも麻痺してしまっている。しかも殺してバラバラにする猟奇的な事は
ひと昔なら数年に一度の大犯罪だが、連鎖して起きるとは異常の域を脱している。
兄妹にしても夫婦にしても裕福な家庭に育ち、何の不自由なく生活してきた幸せは
かえって苦労の味も知らずに憎悪だけが一人歩きして折角の人生を閉じてしまった。
いとも簡単に人を殺せるような非道な心根の幹は小さい頃からの家庭の甘やかしと
教育現場が原因で、大体子供の頃に喧嘩も怪我もしなくては人の痛みも分からない。
殴られて痛みつけられて初めて痛みを実感し子供の頃から喧嘩の倫理の学習をする。
それがないから自己満足のためには簡単に人を殺めて、それを隠すには遺体を切断
するとはもはや人間のとるべき道を外れて地獄の底に堕ちている。この世で生きる
最低限のルールは人への情愛だが、妹を殺した兄は歯医者になるためには何千万の
学資を掛けてもらっている親への感謝の気持ちも無いし、夫を殺した妻は名門校を
卒業しながら校風の優しさを忘れた毒婦の典型的な仕業だ。共通していえるのは
裕福な環境がかえって仇となって、つまらぬ事にこだわり人のあるべき道を忘れる。
親も「いい子」に育てて人の道を教えない。医者という社会的に地位の高い人間が
一番身近な自分の子供に厳しさも優しさも教えられないとはどうしたのだろう。
獅子は千尋の谷に子を落とす、という。アメリカの石油王カーネギーは息子たちに
学生時代にはガソリンスタンドでアルバイトをさせて学資の一部にさせたという。
ひと昔前の江戸の大店は息子を知り合いの大阪の店に丁稚奉公をさせて苦労の味を
知らしめてから跡継ぎにした。苦労は買ってでもせよ、という。物は豊かになって
逆に人の心は貧しくなっている。拝金主義の世の中は、お金が無ければ名門校には
入れないし、いい職にも就けない。裕福な職に就くためには膨大な子供への投資が
必要なのは皮肉にも今回の事件が知らしてくれた。格差社会が生んだ悲劇といえる。