隠居の独り言(266)

不二家の賞味期限切れの食品類は論外だが、人間にも等しく賞味期限があって
哀しいけれど歳を重ねるごとに、その味は徐々に落ちていく。あの青春時代の
一番美味しかった頃の最中には気がつかなかった人生の味は、老いてはじめて
しみじみする苦い後悔だが、過ぎて振り返るより貯めた人生の財産をこれから
充分に使い果たす実のある余生でありたいと思う。人間味とは熟されたものの
言葉であって年齢で姿格好、欲望、健康、知識、情愛などが薄れて退化しても
意識が前向きであれば賞味期限が切れる事はない。でも男と女は違いがあって、
女性は年齢には関係なくいつまでも美しくありたいと願い努力する人が多いが
男性は定年という劇的に環境が変化する機に、どっと心身ともに老け込む人が
ままあって、ここは脂の乗り切った頃で賞味期限がここで切らすのは勿体ない。
先日の朝日新聞の記事によると「老後に夫と暮らすと妻の死亡率が約2倍になる」
男性の高齢者の多くは日常生活の大部分を妻に依存して、そのため妻には肉体的、
精神的にも夫の存在が負担になっている、結果は女性が夫と同居しているほうが、
いない場合に比べて死亡リスクが約2倍にも高まっているそうで、一方の男性は
妻がいる場合は、いない人に比べて死亡率は約半分との数字で表されている。
数字で見るかぎりは老いた夫は妻に相当の負担を掛けているようで身に沁みる。
夫に先立たれ残された妻の平均寿命20年、妻に先立たれた夫はたった2年とか!
夫婦が末永く仲良く老後を送るには夫が家事などを覚えて妻への依存度を少なくし
自立することが大切で、それにはこまめに身体を動かすことが健康には最も適し
それが男の賞味の発揮するところだ。「男子厨房に入らず」とかで台所に立つのは
男の沽券に係わると思っている男性がかつては多かったが現代では通用しない。
料理人は殆どが男性だしクリーニング屋のアイロン掛けは男の仕事だ。歳を取って
調理が苦手なら皿洗い、洗濯の干し物が苦手ならアイロン掛け、掃除が苦手なら
ゴミの選別出し、などと家事は一生を通じての身体を動かす健康法に違いない。
そして天気のいい日には夫婦で旅をしよう。旅先で見知らぬ土地を二人で歩く時、
長年連れ添っていても、互いに思わぬ新鮮な相手を発見することが出来るだろう。
人間の賞味期限は命尽きるまでにしたい。