隠居の独り言(268)

数千年の人類の歴史は、また戦争の歴史といっていい。最近でこそ言葉は
「システムの時代」だというけれどシステムとはある目的に向かって進む
合理的に運用する機能を持った組織の事で、早い話し軍隊が一番の例えだ。
戦いで勝つという目的のために、あらゆる機能を集約させた集団は軍隊を
おいて他に無い。会社組織の利益を追求する集団も元を質せば軍隊の縦の
社会で社長から平社員まで一つの目的に一致する組織の定義にあてはまる。
NHK大河ドラマの「風林火山」にあてはめれば、当時の甲斐の武田信玄
市川亀治郎)率いる騎馬軍団は武田24将と称された24人の将が団結し
統制のとれた軍隊組織で周辺の城を攻め落とし信濃や東海地方に覇を成して
越後の上杉謙信(ガクト)とともに戦国時代では最強二大軍団と言われたが
結局は天下取りレースでは織田信長にしてやられたのは戦術的には織田軍に
勝っていても、天下を夢見る大きな戦略にかけては織田信長の器より小さく、
農民的な田舎の発想から抜け出せなかった。山本勘助内野聖陽)の考えた
秀でた兵法も局地的な合戦のための戦術家で、いわゆる戦略家ではない。
兵農分離を始めたのは織田信長だが武田も上杉も守護大名という看板を持ち
土地に執着して本拠地から離れられなかったのが天下取りの資格に欠けた。
武田軍団の軍師が山本勘助とすれば、織田軍団の軍師は羽柴秀吉にあたるが、
政治的感覚や合理的な利益追求型の意識は秀吉のほうがはるかに優れていて
後の結果は全国統一に成功する。 山本勘助はなまじ武術に秀でていたから
あらゆる戦術のかたちを用いて敵に当たっているが一方の秀吉は食料攻めや
水攻めなどで敵の人命をできるだけ殺戮せず外交手段で相手を倒している。
ドラマは勘助の実の兄、山本貞久(光石研)との骨肉の争いだが戦国時代は
上から下まで親兄弟といえども油断のならない醜さはまさに乱世そのものだ。
人間のエゴ丸出しの戦国は、裏を返せば最も人間的な時代だったのだろう。