隠居の独り言(279)

自民党が揺れている。幹事長の中川秀直は「首相に忠誠心なき政治家は内閣や
官邸から去るべきだ」と語り、首相の後見人たる森喜朗は「閣僚が首相を尊敬
していない」と名指しで久間章生麻生太郎尾身幸次の各大臣を批判した。
かつての実力者は諸問題が起きても裏や影で事を納めたはずの自民党だったが
今は公言がはばからない。党が開かれたのか実力者が衰えたのかは分からない。
そもそも安倍晋三は人生そのものが順調すぎて「お坊ちゃん」過ぎやしないか。
小泉純一郎のように一本気で偉そうに振舞えばいいと思うが・・それはともかく
小泉前首相の最初の施政方針演説のフレーズは幕末長岡藩の「米百表」だったが
今国会の内閣の方針で安倍首相は福沢諭吉の言葉を引用し「困難な事にひるまず
前向きに挑戦する」と美しい国作りに全身全霊を傾け、たじろぐことなく進むと
締めくくった。なかなか結構な話だが泉下の福沢諭吉はどう思っているだろう。
諭吉が少年の頃に兄から「お前は大人になったら何になるつもりか」と聞かれて
「日本一の金持ちになりたい」と答えたら、叱られて思いっきり殴られたという。
幕末の頃の士農工商身分制度は武士の子弟はむやみにお金の事を口に出しては
恥とされ蔑まされていた。身分の下の商人の子供は「自分は卑しい商人の子です」
内心はともかく身分の厳しい封建主義の時代は、武士も商人も「富」に対しては
心理的な束縛があったようだ。明治になって諭吉が外遊をした時にはロンドンや
パリの石造りのビル群を見て驚嘆し鉄道や電信事業などの日進月歩の文明を見て
幕末明治の日本では到底考えられないほどの進んだ西洋社会を知ることになる。
諭吉は考えた。日本も産業を興して貿易を進め、国を富まし強兵を養い幕末での
不平等条約から抜け出して欧米諸国と同等の地位を獲得しなければならない。
諭吉はその後、日本最初の株式会社「丸善」を設立し、明治生命慶応義塾大学、
東京銀行、日本鉄道会社などを興し日本の実業界に大きく貢献することになるが
現代日本の経済成長の曲がり角にはいつも諭吉の考えが存在していた事になる。
安倍晋三の諭吉に対する思いを決して画餅にする事なく困難に邁進してほしい。
格差社会を克服する政治であってほしいが誰もが財布の中身に福沢諭吉が何枚か
入っている社会を願っている。厄介な今の世相は承知だがここは安倍晋三内閣の
「戦後体制の大胆な見直し」に期待している。