隠居の独り言(291)

先週に届いた池田晶子さんの訃報には驚いた。しかも46歳という若さである。
著書の「哲学エッセー」といわれる本の数々を読み漁ったが人生観や死生観等
哲学の目から見た人生の生きかたを分かりやすい文章で語るように教えられた。
つい最近まで週刊誌に連載のエッセーを綴られてまさか病魔に侵されているとは
知るすべもなかったが毎週読ませていただいてその筆致にいつも感動していた。
惜しくも腎臓ガンの病で亡くなられたが、著書「41歳からの哲学」のなかで
「医者を責めるのは簡単である。もしも彼らを責めるのなら患者は自分自身の
死生観を明確にしておくべきである。治してくれと頼んでいるのはあくまでも
患者である。医者の失敗を許せないのなら、命は自然に任せるがよろし」
東京慈恵会医大青戸病院で平成14年11月に前立腺ガンで腹腔鏡手術を受けた
患者が死亡する事件があったがこの件に関しての思索を書かれている。因みに
自分はその1ヶ月前に同病院で同病気の手術を受けたので当時は感銘を受けた。
それだけに著書を読んでどれほど元気付けられ希望を与えられたかわからない。
彼女ほど自分を持っていた作家も少ないだろう。「地上デジタル放送なるものは、
よりよい画質が送れるということらしい。しかしそれが何だというのだ。愚劣な
無内容のワーワーギャーギャーを高画質で観ることに、いかなる精神向上がある」
TVはニュースしか見ないしインターネットも携帯も持たず、ひたすら文筆業に
耽られたのは、それだけ文章も純粋かもしれない。自らの病の事は一切触れずに
「死は自然だから恐れることはない」と公言されていた。その素晴らしい文章は
自分のブログの参考にもさせてもらったし、幅広い多方面の読者にも支えられた。
短い46年の生涯だったが彼女はきっと悔いのない人生を過ごされたに違いない。
一昨年に47歳で亡くなった杉浦日向子さんといい昨年に56歳の米原万里さんと
いい、神はあまりにも美しい逸材の人を早く召される。ご冥福を祈る。 合掌。