隠居の独り言(364)

秋に公開される映画「象の背中」は「余命半年」をテーマに命を見つめ直す
話題作だが、「あなたの余命は半年です」不動産会社で働く48歳の営業部長
役所広司)が医師から末期の肺ガンである事を告げられる。医師は入院と
治療を薦めるが彼は一切の延命治療を拒む事を決意する。彼が選んだ余命の
過ごし方は今まで出会った大切な人たちに別れを告げる事が残された時間だ。
彼なりの方法は23年間を連れ添った妻(今井美樹)と娘(南沢奈央)には
自分が末期ガンである事は最期まで告げないと決めるが、ただ大学生の長男
塩谷瞬)には同じ男として苦労を分かち合いたかったので病気を告白する。
そしてもう一人、愛人(井川遥)には事実を伝える。映画の原作は秋元康
永遠に尽きる事のない生と死のテーマだが一番身近な妻や娘に事実を伝えず
愛人等に告白する彼なりの「遺書」の作り方にはすこし疑問が残りそうだ。
それはともかく普通、死の宣告を受けたら映画のように格好良くはいかない。
ショックと恐怖で激しく取り乱し決して冷静に行動は出来ないのが普通人だ。
精神科医だって人間だから自分が死を避けられないと知れば苦悩の精神を
コントロールするのは難しいと思うしどうしようもない怒りと狂いで周囲に
当たり散らす事だろう。良寛も「裏を見せ表を見せて散るもみじ」と逝った。
季節は美しいアジサイの花で染まっている。とくに雨上がりのあとの綺麗な
花の色は足が止まってしまう。まるで人生の青春時代のように・・でもやがて
盛りを過ぎて色の移ろいを観察していると「老い」にも似た風情になっていく。
夏の陽を浴びて朽ち果てていくときには人生の終わりも思い知らされる。
アジサイは来年も咲くが人生は一度だけ、命の大切を知るいい映画だと思う。