隠居の独り言(366)

女の人は芯が強いなぁ、と思うのは夫に先立たれても不死鳥のように蘇えり
益々元気になって女同士で楽しく付き合って旅行などしてはしゃいでいる。
男はその辺りはまるで駄目で奥様に先立たれると残寿命はたった2年という。
ただ男は気持ちが繊細なのか歳を重ねてもロマンティストで恥ずかしながら
恋心は失わない。70数年の人生の中で恋をした事は数々あるが今もどこかで
偶然会ったらと儚い夢を見ることがある。一度だって自分が避けた事は無いし
恋をしたどの人にも誠意を持って接したはずだが今もその気持ちは変わらない。
思うのだが、男の構造は心底から「片思い」に耐えられるように出来ている。
女は自分が恋した男は絶えず自分だけに向いていないと気が済まないらしい。
つまり恋人への独占欲は女のほうが圧倒的に強く「片思い」には耐えられない、
だから覚めたときの諦めも早くてあれほど好きだった男も何かのきっかけで
好きから嫌いへ180度転換してしまう。男はそこまで極端に変われないものだ。
それは女は恋に対してエゴイストになれるからだろう。男を好きなればとことん
愛してしまう。脂肪腹でも、眼鏡が厚くても、教養が足りなくても、全てが
愛の対象になって溺れるように恋に陥っていく。それは恋愛というより、恋に
恋しているからだろうか。だから受けた傷は深いが立ち直るにも切り替えが早い。
恋愛の入り口は易しいけれど出口が難しいのはその辺りの原因が重なっている。
だから多くの男や女は恋のヤケドをする。でもその失敗を重ねる事によって恋の
美しさや儚さが判るものだと思う。反対に最近では恋をしない男も女も多い。
お金持ちの息子や娘、順風満帆に育った人、天才、才女、このような人たちは
容姿もまぁまぁ、小遣いには困らないし、頭もよく、外国語の一つも喋れるが
恋をしたことが無い人の多くは、恋はされるものだと思い込んでいるからだ。
だからどんなに身を飾っても全体に緊張感が見えてこない。真実の恋は相手に
かしづくもので、かしづかれた生活の経験をした者は恋心とは縁の薄いものだ。
物質的な豊かさからは美しさ、優しさ、恋心も生まれない。音楽も絵画も文章も
体験で磨かれたものが艶やかな輝きを出しているものだと思う。