隠居の独り言(375)

作家草柳大蔵は「人生に五計あり」という。生計、家計、身計、老計、死計だが
“生計”いかに生きていくか。生きがいをどう見つけるか。人生で避けられない
喜び、悲しみ、感動、失望などの感情とどのように向き合って生きていくのか。
“家計”生きるためには経済力が必要だが少なすぎると小さな幸せも覚束ないが
多すぎると財産や金の奴隷になって自分では気がつかないほど醜くなってしまう。
“身計”健康状態で、腹に脂を付けると肺や心臓が圧迫され脳に送られる血液が
少なくなりアタマが悪くなるという。脳ほど酸素と栄養を消費する器官は無い。
食事、睡眠、運動の三セットは言うまでもないが、それでいてなかなか守れない。
“老計”実はこれが一番難しい。つまり「美しく老いる」計画だが老いの身体は
頭の髪は砂漠化、皮膚は斑点の群島、手は骨の広陵、目は朧月夜、歯は冬木立、
いつまでも若くいたいが、願望とは無関係な端的な事実だから自然の老化現象に
逆らう事は不可能だ。老いてなお美しいのはその人の持つ雰囲気で、顔に笑みを
目は優しく、口に詩を乗せ、背に流れあり、身体に清風が立ち、人を惹き付ける。
いつも優しい美意識を持ち続けること、老醜、老廃、老残の言葉とは縁を切る!
とは書いたものの果たしてこのように上手くいくかは心の持ち方次第だろう。
“死計”日本人として生きて愛して仕事をして真に良かったと死ねるのか。
後悔をいっぱい抱えた人生だが70-80%ぐらいのほどほどがあれば良しとする。
私たち日本人の宗教は仏教が多いが「輪廻」の考えから言えば、“死計”から
“生計”に戻り、人は永遠に「五計」のサイクルを持っていると言えるだろう。
“老計”は哀しいし“死計”は辛いが、最も熟した花も実もある時期と思えば
老いもまた楽しからずや、ものは考えようだと思っている。