隠居の独り言(399)

「私に若さをくれるなら全財産をあげてもいい」往年の松下幸之助の言葉だが、
それほど若さは貴重なものなのに、その最中は輝く価値に誰もが気が付かない。
私は今メキシコの名曲ソラメンテ・ウナ・ベス“Solamente una vez”の恋歌の
練習に余念がない。歌詞は「人生において、ただ一度だけの恋をした・・」との
意味の歌だが熱烈な愛の歌であるに相違ない。いい歳をしていまさら恋の歌も
ないものだが歌うだけでも気分はいいし精神的な若返りの一つだと思っている。
いったい人間は何歳まで恋の心を持ち続けるものだろうか。恋愛の元来の本質は
生殖本能で自分の子孫を残したい。しかも好きな相手といい形で成就したいもの、
これが恋の原動力となって相手をめぐり闘争本能が芽生え種の進化に結びついて
恋が成立するが、殆どの動物は繁殖期が決まっていてその時期を終わると急速に
生命力が衰えて死を迎える。夏の終わりに短い命を終えたセミの亡骸を見ると
その潔い姿は基本的に蝉をはじめ野生動物には老化現象が全く無く、人のように
老いに悩む事もありえない。人間は繁殖の役目を終えてもそれから長く生き続き
かつ異性を求める気持ちは生涯を終えるまで持続する。まことに厄介な動物だ。
実際に女性は10歳前後から性線刺激ホルモンという物質が分泌されて思春期に
入り50歳前後で分泌が止まり生殖機能はストップし身体的な恋の季節は終わる。
同じように男性も女性のような劇的な変化は無いが確実に生殖能力は衰えていく。
その後の人生は子孫を残す事に関わりがなく生き延びるが、寿命80年としても
半分は生殖と切り離された時間だが「老人と性」の問題は、諸刃の剣のようで
それぞれの持つ品格に大いに左右される。けれど最も人間らしい「純愛」と言う
異性を求める崇高な精神もこの辺りから出てくるのではないか。身体は老いても
脳が恋を欲するのも、心がときめき気持ちに張りが出てホルモンの分泌も活発に
なるのは元気の秘訣ではないか。老年よ、恋をしよう。