隠居の独り言(404)

10数年前に信州高遠城で桜の花見をしたことがある。広い城跡が美しい満開の桜で
埋まるのは見事で、今では信州随一の桜の名所として大勢の観光客で賑わっている。
NHK大河ドラマ風林火山」の物語から武田晴信市川亀治郎)亡き後の話しだが
1582年3月に織田信長の嫡子信忠を総大将とした織田の大軍の攻撃を受け、武田の
仁科五郎盛信と城兵500人全て玉砕した戦国悲劇の舞台となった。折しも春3月は
桜の季節で高遠城との因縁を感じずにはいられない。五郎盛信は、武田晴信が側室の
於琴姫(紺野まひる)に生ませた男子だが武田家を継いだ由布姫(柴本幸)の勝頼と
仲がよく片腕となって家を支えたが前代の晴信時代の勢いは無く全国制覇を目指した
織田信長には敵うはずもなかった。五郎盛信の妹の松姫は数年前に織田信忠と婚約を
していたが趨勢は如何ともし難く、ときに盛信25歳、桜花のように散っていった。
高遠城山本勘助内野聖陽)が設計したとも伝えられ城を見る毎に感動を覚えるが
その織田信長、信忠親子もそれから僅か三ヶ月後の6月に本能寺の変明智光秀
滅ぼされた事を思うと人の世の栄枯盛衰の儚さが胸に迫るような思いに駆られる。
ドラマでは武田家の重臣の小山田信有(田辺誠一)が側室の美瑠姫(真木よう子)に
刺殺されるという事件が起きる。美瑠は武田に滅ぼされた志賀城の城主夫人だったが
恨みが尾を引いていたのだろう。由布姫、於琴姫、美瑠姫たちは武将の側室という
過酷な運命を生き抜くが、戦国に生きる女性のしたたかさは美しくも哀しく生き方は
現代のモラルでは想像も出来ない日々であったに違いない。男社会に縛られたなかで
由布姫が嫉妬した於琴姫の子が自ら産んだ勝頼と共に武田家の滅亡の最後を飾るとは
夢にも思わなかっただろう。高遠の桜は今年も美しく散った。