隠居の独り言(503)

神の国日本は日の神の御子孫たる天皇が治める国である。天皇は世界に君臨し
御威光は遠近にかかわりなく隅々にまで及ぶ。しかるに今、西の果ての野蛮なる
者どもが四方の海をかけめぐり身のほど知らずにも我が国を凌駕せんとする」
著者は水戸藩士だが尊皇攘夷の幕末の志士たちにとって聖書のような書だった。
尊皇攘夷とは天皇を奉り外国と戦う思想だが長い間の鎖国で日本人の宇宙観は
徳川の支配する日本の土地のみで井戸の中の蛙の次元しか無かったと言える。
大河ドラマに登場してくる水戸藩主・徳川斉昭江守徹)は徹底した攘夷論者で
狭い世界観の中で外国と戦うという現代の感覚では滑稽と思える攘夷思想も当時の
水戸藩の主流でもあった。天皇を敬うのは先祖の水戸光圀以来のものであったから
先祖代々にしても藩内には徳川本家の開国論に同調する派閥もあって抗争が激化し、
攘夷派は水戸天狗党という超過激集団が結成され朝廷に訴えるべく数千人が京都に
向かうが途中の各藩と戦争し、最後は加賀で全員が捕らえられ処刑されるという
水戸藩は血を血で洗う悲惨な結末になっていく。NHK大河ドラマ篤姫」の中で
西郷(小澤征悦)が斉彬(高橋英樹)に改革と信賞必罰について建白書を出すが
斉彬は水戸の党派の凄い争いを知っていて反主流派にも処罰はしなかったという。
物語は将軍家正室となることを知り、覚悟を決めた篤姫宮崎あおい)は、幾島
松坂慶子)とともに勉強に余念がない日々を過ごしていた。やがて斉彬から
実父忠剛(長塚京三)、実母お幸(樋口可南子)にも伝えられ、共に娘の出世を
喜びつつも姫がこれまで以上に遠い存在になってしまった辛い定めを悟る。
斉彬の粋な計らいで篤姫と尚五郎(瑛太)が七夕の日に碁を囲むシーンがあるが
ドラマの筋書きとしてほほえましい。