隠居の独り言(609)

先月の緒形拳の訃報に続いて今月は筑紫哲也が世を去った。ファンだった
二人のナイスガイは憎むべきガンの被害者だが、高齢と云う峠の入り口を
越えられなかったのがとても残念だ。二人には後半生の円熟期を味わって
もらいたかったし、高齢者の仲間入りをして人生を語ってもらいたかった。
老いの不安は高齢者にしか分らないが、だからこそしっかりした舵取りが
必要なのは云うまでもない。ここ数年は高齢者犯罪が増え続けているという。
昨年に交通違反を除いた「一般刑法犯」で検挙された65歳以上の高齢者は
約48,000人となり20年前の約5倍に達したとう。この20年で老人の数も
2倍になったが、それ以上の増加率は治安の悪化に高齢者が手を貸している。
犯罪者で最も多いのは万引きを含む窃盗犯で動機は生活困窮や経済的不安が
多いが、少子化の影響や配偶者を亡くしたりしての単身者の孤立感からくる
犯行も少なくないという。暴力や殺人等の凶悪な犯罪も増えているらしいが
それは親族の間が圧倒的に多くて動機としては収入減からくる将来の悲観や
介護疲れ、激情、憤怒などが多く高齢になるに従って人との付き合いが減り
家の中での家族と一緒に過ごす時間が増えるとともに関係がうまくいかなる
ケースが犯罪に結びついていく。事件を起こした老人たちの共通点は誰にも
相談せず一人で悩む「抱え込み」が悲劇を生むという。親族から疎遠にされ
経済的にも不安定で心身上の問題や病気を抱えているのも要因であるらしい。
身につまされる話しだが晩節を汚した彼らの犯行を知って、はたして自分は
大丈夫だろうか、老人特有の頑固さ、非妥協性はないか、他人を嫉まないか、
家族や友人との親睦を保てるか、ありがとうの感謝の心を持ち続けられるか、
今はしっかりしているつもりでも行先は分らない。老いとは哀しいものだと
新聞記事を読みながら、ため息が出た。