隠居の独り言(636)

謙信(阿部寛)が、その器量を見込んで若き日の自分の名前を与えた武将がいた。
その人の名は上杉景虎玉山鉄二)。北條家に生まれながら武田信玄の養子となり
さらの謙信の養子となった。本州の中央部にあたる関東甲信越を治めていたのは
北條・武田・上杉で、互いに同盟を強固なものとするために結ばれた三国協調で
それぞれ人質を交換しあったが、その一人として北條氏康の8男の彼が選ばれる。
幼い頃から「余り子」とされ、寺に入れられたり二度の人質生活を過ごし結婚や
離婚も己の意思とは関係なく行なわれ三国の間を転々とする波乱の人生を歩むが
史書に「坂東に隠れなき容色無双の人」とされ姿格好は相当な美男だったという。
謙信も今までイバラの道を歩んできた北條家8男の彼をとても気に入ったようで、
姪にあたる景勝(北村一輝)の妹の華姫と(相武紗季)婚儀を結ばせ上杉の姓を
与えたうえ自身の旧名「景虎」を名乗らせたが、家臣一同これには驚いたようだ。
それは上杉家にとって景勝と景虎の二人の養子を持った事を意味したが、謙信は
二人をライバルとして争わせることによって、互いの成長を目論んだのだろうか。
けれど謙信の急死後に跡目相続の禍根を残すことになる。大河ドラマ天地人」の
テーマは「殿の初恋」だが家老・直江景綱宍戸錠)の娘・おせん(常盤貴子)に
好意を持った景勝は素直に気持ちを表現出来ない。兼続(妻夫木聡)は景勝に替り
偽の手紙をお船に送るが、気まずさを引きずったまま景勝は出陣の日を迎える。
真実はともかく兼続は将来に直江家の養子になり、おせんと結婚する運命になるが
原作者・火坂雅志の作家としての発想のストーリー性が面白い。