隠居の独り言(640)

一月もそろそろ終わりだが今年のあなたの楽しみはと聞かれて幾つ挙げる事が
出来るだろうか。新年の晴れがましい気分であっても今の不況極まる世間では
楽しみを考えても幾つも出てこないが、ここは江戸時代後期に活躍した歌人
橘曙覧(たちばなのあけみ)に教えを請うといい・・彼の歌集の「独楽吟」と
題した連作で<たのしみは…とき>と繰り返す五十二首もの作品を残している。
橘曙覧が晩年の頃、極貧ながら日常の些細な出来事に楽しみを求めその喜びを
歌集に残している。明治に入って正岡子規に絶賛され、斎藤茂吉などに大きな
影響を与えた。「たのしみは朝おきいでて昨日まで無かりし花の咲ける見るとき」
平成6年に天皇・皇后両陛下の訪米歓迎式典でクリントンアメリカ大統領が
独楽吟の中のこの一首を引用して注目されたが大統領の粋な計らいが語り草だ。
今の世相で誰の身にも起きる日常の中で小さな出来事に楽しみを感じたいのは
誰もが望むところだが五十二首の歌に共通する味わいは詠む人の心を和ませる。
「たのしみは妻子むつまじくうちつどひ頭ならべて物をくふとき」
「たのしみは銭なくなりてわびをるに人の来たりて銭くれしとき」
「たのしみは三人の児どもすくすくと大きくなれる姿みるとき」
「たのしみは昼寝目ざむる枕べにことことと湯の煮えてあるとき」
「たのしみは空暖かにうち晴し春秋の日に出でありくとき」
五十二首は心安らぐものばかりで歌集もここまでくるとたのしみの極致になる。
そこで自分も、たのしみの駄作を二つ三つ、詠んでみた。
「たのしみは家族揃ってワイワイとスキヤキ鍋をつつきあうとき」
「たのしみは歌とギターの二人連れ思い通りに弾き語るとき」
ところで週末はギターの仲間たちと新年会の予定だが、とても“たのしみ”だ。
「たのしみはこころおきない友たちとギター三昧喋りあうとき」