隠居の独り言(659)
日本史に登場した美男子といえば思い出すままに、万葉の大津皇子、草壁皇子、
平安の在原業平、源平の源義経、平敦盛、戦国から江戸では森蘭丸、高山右近、
木村重成、天草四郎、大石主税、幕末では沖田総司、伊庭八郎等だが共通点は
文武ともに秀で、気持ち優しく、美顔に憂いがあり、勇気があり、覇気があり、
そして夭折する。そこがポイントで長生きをすれば人間臭く容姿も衰えるので
絵にならない。若くして悲劇的に最期を遂げるのが、日本人好みの判官贔屓で
余計に美化させる。玉山鉄二の演じる戦国時代で一番の美形武将とも称された
上杉三郎景虎は野史にも坂東に隠れなき容色無双の人と記され杵唄にもなった。
歴史的な英雄英傑にも名を列ねていない景虎が後世にまで慕われている理由は
美男武将という外見的なことだけでなく北條・武田・上杉の三国を人質の身で
転々とした波乱に満ちた道を歩み、悲運にも若くして終焉を迎えたからだろう。
悲運の景虎にとって景勝(北村一輝)の妹・華姫(相武紗季)と暮らした春日山の
数年間の生活が最も幸せな時ではなかったか、それも謙信の急死によって束の間の
平穏も無常に去っていく。NHK大河ドラマ「天地人」は上杉家の跡目相続を巡る
景勝×景虎の戦のいきさつが描かれる。春日山城本丸占拠を兼続(妻夫木聡)の
策略と疑う景虎は兼続に切りかかるが仙桃院(高島礼子)が、その場を鎮める。
一方、お船(常盤貴子)は仙桃院に景勝のもとに戻るよう説得するが仙桃院は
景虎のもとに残り身を挺してまで戦を止めさせると言う。女性達も巻き込んだ
骨肉の争いは哀れを誘うが、そんな春日山城内の内輪もめもよそに越後の中は
各所で二派に別れて内戦が勃発していた。