隠居の独り言(679)

「仕事を続けていれば思い詰めずに済んだかも」母親を介護していた元タレントの
清水由貴子さんの自殺に介護経験者は口をそろえる。自宅で要介護者をみる家族は
孤立しがちで離職はそれに拍車を掛ける。清水さんは離職者が陥りがちな心理の末
命を絶ったのだろうか。たった一つの命を無駄にするなんて・・人は何とでもいう。
清水さんは自らの全てを母親に尽くし、よくやったと親孝行の鑑を褒めてあげたい。
ますます拍車がかかる老齢化社会は介護の問題をますます深刻なものにしている。
世界一の平均寿命は、さらに伸び男は87歳、女は93歳になると新聞に出ていた。
しかし素直に喜べる人はどれほどいるのだろうか。心身とも健康で生を終えるまで
全う出来た人はどれほどいるだろうか。かつては長寿が目出度いのは端的に珍しく
人生50年時代に80歳まで生きれば鶴亀で、その周囲も、目出度がられた本人も
男性は隠居なり翁の尉として女性は優しさの範を垂れる姥で、ともに凛があった。
昔は生まれるのも死ぬのも自分の家が普通だった。祖父、祖母、父は突然のように
家の中で倒れ、二度と話をすることは無かったが、我が家の畳の上で旅立った。
医学の発展は長寿をもたらした喜びや有り難さの半面に、各種病気の進行を遅らせ
寝たきりの人や介護を要する人たちを多く輩出した。清水由貴子さんは現代医学の
犠牲者のような気がしてならない。介護に対する恨みや悔いや母に対する愛さえも
社会という壁に、我と我が身に跳ね返り死んでいったのだろう。とても哀れに思う。
人生の最後は自分で身を処したいが、いまや残念ながら周りが牧っておかない。
倒れると僅か5分で救急車が来て、助からないと思っても延命治療が待っている。
人生ままならぬ。病室の白い天井や壁よりも畳の上で臥せって終えれば幸せだ。
清水由貴子さんを顧みてつくづくと人生の終わりの難しさを思った。冥福を祈る。