隠居の独り言(704)

歴史上の英雄で誰が一番に好きかと問われれば即座に秀吉と答える。なかでも
信長(吉川晃司)が本能寺で挫折して、その後天下を取るまでの時期の秀吉の
人間味がとても好きだ。係争する相手の功利性を温かい目で包んで流血を避け
人のプライドも味方に付けた戦略性は長い日本史の英雄でも秀吉のみだろう。
師匠だった信長の戦術、政治感覚など学ぶものは多かったが、信長流な手法の
殺戮の限りを尽くした戦いや、家来への徹底的な使い捨てなど反面教師として
学んだ人間性は、秀吉の若い頃から苦労して登りつめた人生観と庶民的感情を
肌で知ったからに違いない。景勝(北村一輝)の上洛時に聡明なうえ闊達な
家臣の兼続(妻夫木聡)を見たとき思わず自らの半生の辛苦を重ね合わせた。
三成(小栗旬)への寵愛もそうだが、叩き上げの賢い若者が好きなのも頷ける。
兼続という人物は出来るなら越後に埋もれるより中央で活躍したほうがいい・・
そう考えるのは秀吉ならずもだが、彼の最も冴えていた時期の戦略からすれば
景勝・兼続の“義”とやらに縛られた器量の狭さが、その後の歴史をも変えた。
NHK大河ドラマ天地人」では、兼続は景勝につき従って大坂城で開かれた
関白秀吉(笹野高史)の茶会に出席し満座の中で兼続を自らの家臣にしようと
砂金の山を積むが兼続は自らの主は景勝以外にいないとその誘いを突っぱねる。
それでも秀吉の計らいで正親町天皇より景勝には従四位下左近衛権少将の官職、
兼続に従五位下山城守の位階を賜る。戦国時代の大名達は領国支配の正当性や
戦いの大義名分のために権威や格式を重んじ官位にこだわった。本来、官位は
天皇から直接賜るものだが、信長や秀吉の政権になると朝廷に交渉して権威や
献金の見返りに官位を得るケースが多く秀吉による景勝・兼続へのはからいは、
その最たるものだ。その見事な「人たらし」に強力大名の家康(松方弘樹)も
関白秀吉にこうべを垂れる。