隠居の独り言(758)

明治27年日清戦争のさなかに生まれた祖母は、数え歌をよく歌っていた。
♪一月談判破裂して 日露戦争はじまった さっさと逃げるはロシアの兵 
死んでも尽くすは日本の兵 五万の兵を引き連れて 六人残して皆殺し
七月八日の戦いに ハルピンまでも攻め寄せて クロバトキンの首を取り
東郷元帥万々歳・・♪・・11番以降は略・・
NHK大河ドラマ坂の上の雲」の背景は、前回までの遠い歴史の彼方でなく、
つい最近まで生存していた、三、四代前の曽祖父母の生きた明治時代の物語で、
手の届くような親近感と、先祖の温もりが未だに残っているような気さえする。
祖母から習った数え唄を今でも暗唱して歌えるのは、明治の遺伝子が頭の中に
伝えられているのも嬉しい。これからの連載されるドラマの様々な場面を観て、
うちの爺ちゃん、婆ちゃんが、このような背景の世の中で暮らしていたのかと
興味と感慨を深くするだろう。一世紀という単位は、近いようで遠い存在だが
昭和・平成に生まれた私たちの世代が温故知新を育むには最も良い距離だろう。
20世紀はまさに世界史の人類の分水嶺で、どのように世間が変化していくのか。
その分水嶺起爆剤の役割を果たしたのは、様々な面で日本人が国運を賭けて
戦った日露戦争ではなかったか。歴史は一世紀を過ぎて初めて彼我の公平な考証が
出来るという。勝った側も負けた側も冷静に史実を判断できるという事なのだろう。
背景は明治の世の中、主役は四国・伊予松山に生まれて日清・日露戦争に活躍した
秋山好古(阿部 寛)真之(本木雅弘)兄弟と、日本の俳界に大きな業績を残した
正岡子規香川照之)の三人で、彼らの目を通して明治時代という日本の未曾有の
近代国家発展のプロセスを見ることが出来るだろう。ドラマは幕府が大政奉還して
明治の世が始まった年に四国・松山藩藩士・秋山家で5人目の男児が生まれた。
後に日露戦争のクライマックスの日本海海戦を指揮した秋山淳五郎真之の誕生だ。
劇中、真之が故郷を離れるシーンは自分の上京時の状況と重なって胸が熱くなった。