隠居の独り言(760)

「まことに小さな国が開花期をむかえようとしている」あまりにも有名な書き出しの
坂の上の雲」だが、国家という概念を持った明治以前の日本では徳川一族のための
封建社会身分制度が厳しく、さりとて年号が慶応から明治に変わっても士農工商
身分制度戊辰戦争の名残の官閥は簡単に崩せるものでなかった。そのような中でも
どういう階層の子供でも一定の資格を取るために必要な記憶と根気を備わっていれば
官吏でも軍人でも教師でもなれるという立身の平等な時代は歴史の中で明治を置いて
他に無い。まことに小さな国の、まことに小さな四国・松山の青年達が身分や派閥を
乗り越えて成長し、やがて世界最強の軍隊を持つロシアを相手に戦った痛快な物語は、
歴史小説に付きもののフィクションが全く無いというのも、正確な史実を見る思いで
司馬遼太郎の膨大な資料からくる飽くなき追及心と、その努力に驚きと感動を覚える。
このドラマも、きっとそれに応えてくれるだろう。農業国の見本のような松山の風景、
文明開化の見本のような横浜の風景は、まさに小さな国の開花期を見ているようだ。
1853年の夏ペリー提督率いる黒船が浦賀にやって来て徳川幕府に強く開国を迫った。
ペリーはその強圧的な外交と軍事力で開国を迫ったが、日本側は何の対抗もできずに
関税の額すら独自に決められず、外国人の犯罪を日本側で裁く事も出来ない一方的に
不平等な条約を欧米諸国と結ぶ事になった。しかし日本の指導者は歯を食いしばって
たとえ不平等でも国際社会の法則を守るのに徹した。国家としての軍事力がなければ
外国にコケにされると悟った指導者達は日本を豊かな国にして不平等を改正しようと
努力した。その結果、維新が起こり富国強兵・殖産興業を合言葉に国は一つになった。
ドラマは上京から1年後に真之(本木雅弘)と子規(香川照之)は大学予備門に合格し、
夏目漱石小澤征悦)と出会い友情を育む。自分の進むべき道は何かと悩む真之だが、
海の向こうに広がる世界を見たいという思いを強くして海軍兵学校に入ることを決意。
兄の援助から自立し一身独立するという弟の覚悟に好古(阿部寛)も賛同し、真之は
築地の海軍兵学校に入学する。そこで1年先輩の広瀬武夫藤本隆宏)と出会う。