隠居の独り言(798)

日本人はペリーの黒船来航で「海の外」を知るようになるが、それまでの長い間、
人々は日本だけが独立した天下だと思っていた。戦国期に織田信長天下布武
謳って日本を征服すれば天下を取ったと意気込んだが、周り全てが海の島国では
大陸に住む人から見れば滑稽だったに違いない。そのうえ日本人は農耕的民族で
生涯を生まれた土地だけで暮らし、その生活習慣は先祖代々長らく続いていた。
私事を言えば戦時中に福島県白河に疎開したことがあったが、近所の人の大半が
海を見たことが無いと言っていた。ほんの半世紀前までの日本人の視野の次元が
それぐらいであったから幕末頃の150年前の一般的な日本人の暮らしや考えは
井の中の蛙みたいで世の中というものは隣村から外は異次元だったに違いない。
幕末の混乱は歴史的に見れば大きくても動いた人は人口の十分の一の武士達で
その中の役割をしたのは幕府の一部と300諸侯の中の一握りの日本の西南部の
地方の藩であった。清国や朝鮮は海を隔てて近く、そこから流れてくる情報で
欧米諸国の植民地政策の悲惨さを知り、薩摩や長州は人を派遣して相手を探り
直接見聞すれば外国からの脅威を、はじき返す攘夷の思想も沸いてくるだろう。
幕府の鎖国はいつまでも保つはずなく外国から近い地理的に九州の南端・薩摩
本州の西端・長州から革命の火が燃え出したのは必然で自然発火的とみていい。
しかし外国に刃向かう戦力も無く思想だけで気勢を上げる武士たちに疑問を抱く
竜馬(福山雅治)は、物事に冷静で大局観を備えた志士の一人だったといえる。
ドラマは開国派の吉田東洋を暗殺しようとする半平太(大森南萌)の心を知り
鎮めようとする。今まで半平太に「おまんは土佐藩にこだわりすぎすぎぜよ」と
竜馬は繰り返していたが、自らも土佐に身を置いては行動に限界を生じると感じ
脱藩を決意する。かたや竜馬を暗殺しようと後藤象二郎青木崇高)は、弥太郎
香川照之)に命じるが、毒を盛ったお茶を竜馬が飲む前に払いのけてしまう。
竜馬、半平太、弥太郎、三者三様の生き方や葛藤がドラマを通じて感じ取れる。