隠居の独り言(805)

上京して半世紀以上が過ぎたが、歳のせいなのか、ときどき昔日を思う。
生まれた昭和の初期から平成の現在に至るまでの20世紀→21世紀という
この時間は人類にとって、無論日本にとって最もダイナミックに変わった
時代であったと思う。日本にとって僅か半世紀前までの国の様相は世界の
なかの農業国の一国に過ぎなかった。といっても国土は狭く農業に携わる
百姓は限られた土地の人数しか生活していけず男も女も14-15歳になると
跡継ぎの長男だけを残して他の兄弟姉妹は故郷を離れざるを得なかった。
地方には産業は乏しく、男は都会の商家や工場に丁稚小僧に、女は女中や
女工になるために都会に出て行った。それでも就職出来るのはいいほうで
能力的なものが欠けていたり誤って人生を棒に振った若者は数え切れない。
このような事情は江戸時代からのかなり普遍的な社会のあり方であったし
徐々に改善されたといえ昭和30年代頃まで続いていた日本の制度だった。
明治から昭和にかけ富国強兵・資本主義の発展はサラリーマンを生んだが
あくまで雇い人の範囲で権利や組合もさほどしっかりしたものでなかった。
戦後になって物不足や朝鮮特需も重なり一気に高度成長期を向かえ工業が
飛躍的に発展し企業は集団就職という形で田舎から多くの中学校卒業生を
工場に雇い産業が発展していく。健保、年金、賞与、有休、退職金などの
制度は人材を集めるために定められたもので、そんなに古いものではない。
会社が社員の人生全ての面倒見をする日本独特の終身雇用は高度成長期の
制度といえる。ちなみに自分は昭和30年代に今の仕事を立ち上げたので
それらの恩恵にあずからずボーナスを頂いた嬉しさの無いのがチト淋しい。
長く生きた証しは奉公人とか丁稚小僧の徒弟制度の経験者の生き残り組で
変化の富んだ世の中を生かせていただいた人生と世相に感謝している。