隠居の独り言(806)

大正から昭和にかけて一世を風靡した「新国劇」の出し物の傑作は「国定忠治」と
月形半平太」だが、半平太の劇の設定は幕末期の恋あり剣ありの華やかな作品で
中でも雛菊「月様、雨が・」月形「春雨じゃ、濡れてまいろう」のセリフは有名だ。
戯曲のモデルは大河ドラマ「竜馬伝」に出演の土佐藩士・武市半平太(大森南萌)と
されている。劇中の月形半平太は浮名を流す優男だが、実際の半平太は妻・富子と
仲睦まじく他の女性を寄せ付けなかったという。身の丈は180センチ・容姿端麗、
剣術は免許皆伝の腕前、言説さわやかな教養人で人格も高潔にして誠実、武士道、
仁義を重んじていたという。書道に優れ美術も南画の腕があり自画像や美人画など
多くの優れた作品を残している。どこから見ても非の打ちどころが無い人物だが、
それだけに自尊心が高く自己主張を曲げない頭の固さが難点といえる。そんな彼は
黒船来航という時勢の動揺を受けて攘夷と挙藩勤王を掲げる土佐勤王党を結成して
全国に名を成し、土佐と京都と江戸での国事斡旋によって一時は藩論を主導するが
土佐藩の政変により政局が一変すると藩主・山内容堂によって召還され投獄される。
その前に半平太は薩長の和解調停案の決裁を容堂に仰ぐために帰国しようとするが
長州の久坂玄瑞は危険であると止め脱藩して長州へ亡命を勧めるが半平太は拒否し
挙藩勤王の素志を貫徹すべきであると告げて帰国する。彼の頑固さが身を滅ぼした。
ドラマは、勝燐太郎(武田鉄也)の弟子になった竜馬(福山雅治)は土佐出身の
ジョン万次郎(トータス松本)から海の向こうのアメリカの話をむさぼるように
聞いて彼我の国の制度の違いに驚く。勝は竜馬と共に人材を集め海軍塾を開こうと
計画をしていた。ある日、二人は土佐藩主・山内容堂近藤正臣)を訪れて大いに
国論を論じ土佐の人材を申し込み快諾してくれるが、勝はそこで竜馬の土佐脱藩の
罪の許しを乞う。容堂にとって郷士の竜馬は門外の人で快く思わなかったらしい。
竜馬には佐那(貫地谷しほり)との別れ・・この時期、人生の岐路に立っていた。
一方、土佐の弥太郎(香川照之)は材木を仕入れて一儲けをしようと狙っている。