隠居の独り言(851)

幕末の日本が西洋諸国との貿易を開始したのは安政5年(1858)に幕府によって
米・蘭・露・英・仏5カ国とで締結した「安政五カ国条約」をうけてのもので
横浜・長崎・箱館の三港で開始された。最初の頃は幕府の独占的貿易だったが
外国からの圧力もあり徐々に諸藩、商人が直に貿易に携わっていく。輸出品は
銅、雑穀、水油、蝋、呉服、茶、生糸などだが、特に茶、生糸が大部分を占め
折からヨーロッパで蚕の病気が流行し日本の生糸が飛ぶように売れて輸出量が
5年間で5倍になり金額も10倍近くに急騰して農村では米作から桑、茶への
転作が急増し年貢米も減って物価がインフレの様相が高まっていく・・長崎の
女商人・大浦慶が茶を扱って巨万の富を成し、竜馬(福山雅治)始め志士達の
パトロンになったのは名高いが幕末の騒乱に少なからず豪商の役目が存在した。
歴史は英雄の活躍や国取りの物語が主になるが戦争に莫大な戦費が必要なのは
云うまでもない。薩摩、長州、土佐にもそれぞれ豪商のバックボーンがあって
倒幕が遂行出来たのであり、反面に所帯が大きく赤字財政の幕府がパトロン
外国を選んだのは植民地化への道と察した志士達の考えは間違っていなかった。
ドラマ「竜馬伝」は寺田屋で瀕死の重傷を負った竜馬をお龍(真木よう子)が
懸命に看護する。医師を父親に持ったお龍は看病の仕方も素人の域を出ていた。
竜馬は大量の出血のため身体が宙に浮くようにままならず、着物を替えるにも
食事をするにも、厠に行くにも、日常全てがお龍の支えがないと生きていけない。
しかしお龍にすれば好いた相手にここまで身を尽くすことの幸せは女冥利だろう。
世の不思議の一つは男と女の仲で説明のつかない、ひょんな事から出来上がる。
恋という甘美な思いを抱き続けた初恋の加尾も、尊敬と愛慕の情を持ち続けた
千葉佐那の思い出も、今は何処にも無かった。お龍の体を張った果敢で献身的な
竜馬への熱情の看病は一気に男と女の仲を深め離れられない間柄を加速させた。
もし寺田屋事件が無ければ、お龍とはそれっきりで進展も無く遠のいただろう。
竜馬・お龍を取り持った仲人役は、皮肉にも敵方である幕府の見回り組みとは
縁とは実に不思議なものと、つくづく思わせる。