隠居の独り言(862)

ギターを始めて20年は過ぎたのに、未だ腕前はドヘタで実年数が恥ずかしい。
そもそもクラシックギターは地味な存在で楽器の大きさの割には音量も小さく
人前で弾くには相当なテクニックが必要だ。そのうえ曲も一般に馴染みが薄く
禁じられた遊び」や「アルハンブラの思い出」くらいしか知らない人が多い。
歳を重ねた50代の半ばころ、第二の人生は、道楽に趣味の一つも持たねばと
最初は三味線を習おうとしたが、楽器も授業料も相当に掛かると聞いて諦め、
それではと近所にギター教室があったので門を叩いた。でもギターは難しい。
普通一、二年で挫折して止めてしまう人が多いが、ある日、村治昇先生から
「音のいい楽器にしませんか」と薦められ虎の子を叩いて「河野ギター」を
70万円で買ってギターを続けることにした。せっかくお金を掛けたのだから
元を取ろうと、実に賤しい動機だから練習に励んでも上達するはずがない。
教室の生徒さんの中には「ハウザー」や「フレタ」など数百万もする楽器を
所持している人もいてギターに掛ける情熱はその域を脱して尊敬に値するが
なかには高額楽器を何本も所有するマニアックな人もいるのには驚かされる。
元師匠の愛娘・村治佳織はスペインの名職人の「ホセ・ロマニリョス」の
特注品で演奏するとかだが、彼女のように飛びぬけた才能ならいざしらず、
一般の人が高額な楽器を所持するのは殆どが自己満足のようで、演奏会等で
楽器の演奏を聴かされても、その価値が分かるのは素人には難しいだろう。
でもギターはどんなに高い楽器でも価格は1000万円くらいで、ヴァイオリンの
ストラ・・等々の名器の数億の値段には到底敵わない。日本人のギター好きは
世界の楽器の3割を所有しているというからよほど性に合っているのだろう。
けれど中古になれば価格の下落が早い。それと骨董品的価値にならないのは
楽器が大きい割には表面の木の厚みが薄いという構造的な欠陥があるからで
演奏できる状態を維持できるのは100年位だという。クラシックギター
奏でる美しい哀愁の音色は、人の命の年数にも似た無常観が聴く人の共感を
醸し出しているからだろう。