隠居の独り言(906)

昔LPレコードのクラシック盤で一番売れたのはベートーベンの運命のA面で
B面がシューベルトの未完成が組まれていた盤だったと聞く。レコード会社の
企画部社員は人間の心理と人生を見事に把握した人と感心することしきりだが
大河ドラマに登場する信長(豊川悦司)、光秀(市村正親)、秀吉(岸谷五朗)たちの
「運」の運びがドラマチックで面白くも恐ろしい三人三様の生涯を見てとれる。
「運」とはなにか。戦国大名たちは「運」そのもので飛躍もあれば滅びもした。
だが同じ運命も「運」と「命」を逆にみれば運命と命運の異なったイメージだ。
1582年6月2日は日本史で最大に揺れ動いた一日で一人の英雄の命運が尽きた。
この「運」の基準で歴史上の人物を眺めると面白いが、時代を切り拓き時代を
自分の物に築いた信長は並大抵のものでなく運を待つことなく前進のみだった。
この「運」の時期を誤ったのが光秀だった。信長の本質を知っていたはずなのに
清和源氏の流れをくむ名門出身で、その名門ゆえの自負と甘さが戦略を失った。
頭脳明晰で思慮の深い光秀が、ただ時期尚早なのか、時期が遅れただけなのか、
結局、天は光秀に味方せず僅か「三日天下」の花火のようなショーで終わった。
秀吉は「運」を運ぶのに自由奔放な人で彼の積極的行為から天下をものにする。
光秀が死んで僅か10日目に尾張の清州城で、柴田勝家(大地康雄)ら重臣たちと
「清州会談」で速攻に話を決めて「運」を開いた秀吉ならではの野望の階段を
ひたすらに駆け上がっていく。「実力と運」を手繰り寄せての秀吉の戦略には
もう誰も逆らえるものでなく時勢という水が堤を破ったように天下は一変した。
ドラマは信長亡き後に誰が織田家の後継者となるのか。清洲に身を寄せていた
市(鈴木保奈美)らは不安な日々を送っていた。そのころ江(上野樹里)は、城内で
秀吉とおね(大竹しのぶ)と出会う。でもそこには秀吉の母・なか(奈良岡朋子)と
織田信長の幼い孫・三法師がいた。