隠居の独り言(945)

音楽をこよなく愛している。とくにラテンのアンサンブルは至上の喜びを感じる。
でも振り返ってラテン音楽に没頭したのはいつの頃なのか?音楽の原点は両親の
子守唄や叙情歌であり讃美歌に心打たれた純真な少年時代の記憶も関連している。
戦後のラジオからS盤アワーでポップスやジャズを聴くのがとても好きだったが
中でもトリオロスパンチョスのベサメムーチョは自分の音楽観をすっかり変えた。
甘い男性トリオの演唱、ギターの音色(その頃レキントの存在は知らなかった)
ラテンの持つメロディと超技巧テクニックは言葉に言い尽せない感動を覚えた。
今でも地球の夜のどこかで、その夜を彩るためにベサメムーチョは歌われ続けて
演奏の絶える時間は無いだろう。ラテンの星の数ほどある名曲でもこれは別格だ。
人はベサメの意も知らず歌った。♪も一度、またも一度、燃ゆるあのくちずけ・・
それまでギター伴奏で歌うのは古賀メロディの歌謡曲しか覚えのない日本人は
熱いリズムと甘いメロディのラテンに夢中になった。パンチョスの何度目かの
来日公演になけなしの財布を叩いてサンケイホールで聴いた。もう感動の一言!
トップボイスのジョニー・アルビノの高音の澄みきった美しい声に聴き惚れたし
チューチョ・ナバロのメキシコ人の明るい個性とリズムにラテンの真髄を知った。
何といってもアルフレードヒルのレキントギターのテクニックと魅惑の音色は
言葉を失うほどにパンチョスの虜になった。あの感動から長い年月が過ぎたが
パンチョスの夢が現実に見えたのは3年前に素敵な音楽の出会いがあったからで
ペルーの天才ギタリストManuel氏と中南米の本場で腕を磨いたKeikoさんとの
Duo Esperanzaを知ったことで現在は自分も含めTrioを組ませてもらっているが
トリオ(Trio Amistad)の贅沢さは合唱のハーモニーとギターの高音から低音までの
レキント、ギター、ベースの重層な音のハーモニーを同時に味わえる中身の濃さと
夢だったマリアッチを演奏できる幸せは音楽を続けていて良かったとしみじみ思う。