隠居の独り言(963)

子供が生まれた時の感激は言葉に尽くせない喜びだが、とくに歳老いてからの
誕生はいかばかりか?想像絶する感動に秀吉(岸谷五朗)は身を震わせたろう。
おね(大竹しのぶ)と結婚して数十年・・そして多くの側室を持っても子宝に
恵まれず、やっとお茶々(宮沢りえ)に男子が授かった喜びも僅か2年で消え
失望のあまり関白と将来の豊臣の家督を甥の秀次(北村有起哉)に譲る決断を
したばかりなのに再び男子が生まれる皮肉な展開に秀吉は歓喜の極みとともに
秀次に関白の座を与えたことに後悔の念を覚える。秀吉には感情の揺れ動きを
自分で制御出来ないくらい狂わんばかりだっただろう。赤子が成人して豊臣の
跡継ぎになる日までの命の年齢はとうに過ぎて醜い老人の焦りが見えるようだ。
まして心置きない相談相手の弟の秀長も心の友だった利休も既にこの世に無く
孤独の中でますます秀吉は猜疑心に苛まれていく。このまま関白の座を秀次に
していたら自分が死ねば豊臣は永遠に自分の赤子には戻らないだろう。まして
徳川・前田・上杉等の外様大名が虎視眈々と次の天下を狙っているではないか。
自分にはもう時間が無い。思い立ったら行動の早い秀吉は秀次抹殺に走ったが
秀次ばかりか子を宿しているかもしれない側室までも殺す徹底さは老人の醜い
気狂いの仕業としか思えない。朝鮮侵略キリスト教弾圧、利休や秀次の抹殺、
それらの悪行は、営々と築き上げてきた若き日の優れた政治感覚、時代観念は
どこへ消えたのか?これほど性格の変わりの落差の激しい英雄は日本史に無く
晩年の秀吉の行為は現代にまで尾を引いて国の損失は計り知れないものがある。
大河ドラマ「江」は秀吉が伏見に新たな城を築き淀君と赤子の拾を迎え入れた。
そんな秀吉のあからさまな溺愛ぶりに秀次は自分が排除されると恐れ酒に溺れ
気分を紛らわす。江(上野樹里)は秀次が心配でならなかったがどうすることも
出来ない。そこへ家康(北大路欣也)が秀忠(向井理)を伴って訪れるが実は秀次の
ご機嫌うかがいを装った世間の偵察だった。