隠居の独り言(999)

今年の大河ドラマ「江」も来週は最終回だがテレビの歳末の歳時記になっている。
時代の趨勢といえ一大名の位置までに堕ちた淀(宮沢りえ)秀頼(太賀)親子の
豊臣家一族を猫が鼠をいたぶるように滅ぼした家康(北大路欣也)は老人特有の
意地悪な仕打ちとしか言いようがないが、それが後の家康の評判を悪くしている。
家康の立場にすれば幼少の時に今川家に人質にされ長じては信長(豊川悦司)や
秀吉(岸谷五朗)に仕えて長年に堪えていた屈辱感が一気に噴き出たのだろうか。
大筋からみれば関ヶ原で西軍に組して潰された大名は50家余、その家来も含め
数知れぬほどの大量の失業者を処分する絶好の機会は豊臣攻略を置いてなかった。
一世紀に亘る戦国期の総決算はバブルのように膨れ上がった多数の武士の整理と
出来たばかりの江戸幕府の将来には目の上のたんこぶを取り除く必要に迫られた。
後顧の憂いなく幕府の基礎を盤石にするための家康の手際良さは実に遺漏がない。
驚くべきは74歳の高齢で最前線で戦闘を指揮したのは古今東西の歴史に例がなく
言い換えるなら老躯を励まして見事なほどに晩年を活用した人生の手本といえる。
それは現代にも云える模範であり生涯現役の家康はさぞかし満足したことだろう。
しかし一世一代の目的を果たした安堵からか家康は間もなく死病に憑りつかれる。
発病の原因は鷹狩の途中で食膳に供された鯛の揚げ物の食べ過ぎとの説が多いが
本当のところは分らない。歴史がこれを期に江戸幕府体制に大きく変わっていく。
大河ドラマ「江」は前々回までで淀が自刃し波乱に満ちた浅井三姉妹の実質的な
物語は終わっている。豊臣を滅ぼしたことを人生の幕引きとして一年後に家康は
その生涯を終える。辞世の句「嬉しやと再びさめて一眠り 浮き世の夢は暁の空」
やることを全てやりつくした家康の人生は、これ以上の男の本懐は無いだろう。
その後の秀忠(向井理)江(上野樹里)や竹千代(水原光太)国松(松島海斗)
千(忽那汐里)などの夫婦・兄妹の葛藤はドラマの付録に過ぎない。